山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

ニュースにならないほど日常化--中国の身分証番号に伴うトラブルの数々

山谷剛史

2015-08-11 06:00

 日本ではマイナンバーの運用が始まろうとしているが、中国では18桁の身分証番号が活用されている。よく使うことから、電話番号同様に(戸籍のある)国民の多くが自身の身分証番号を覚えている。中国では身分証番号の普及により、どのようなトラブルが起きているのかを見ていきたい。

 身分証番号は身分証に書かれている。百度で身分証を検索ワードにイメージ検索すると、これでいいのかと思うほど身分証の画像がズラリと並び、身分証のイメージもつかめるだろう。身分証には身分証番号のほか名前と住所と民族と生年月日と性別が書かれている。

 18桁の番号はルールによって生成される。最初の6桁にあたる1桁目~6桁目が戸籍の住所コード、次の8桁の7桁目~14桁目は生年月日、次の3桁の15桁目~17桁目が前述の住所コードと生年月日で重複しないための順序番号で、奇数は男性、偶数は女性のルールで割り振られる。そして最後の1桁はこれまで出た数字から特定のルールで算出したチェックディジットである。身分証番号から所有者の戸籍と年齢と性別は分かるわけだ。

 中国には身分証番号で登録するサービスが少なくない。身分証番号が漏えいすれば、写真を入れ替えるだけで簡易なニセ身分証明書は完成する。もちろんニセ身分証明書作成は刑法280条により犯罪と定められていて、違反すれば懲役は一般の犯罪で3年以下、罪を重く見られた場合は3年~7年となる。

 利用者の写真と顔をチェックして番号を留めればいい対面式のサービスであれば、ニセの身分証で申し込めてしまう。また電話やインターネットで顔チェックなく登録できるサービスなら、ニセの身分証を用意する必要もない。画面に漏えいした他人の身分証番号を登録するだけでサービスが通ってしまう。身分証番号と携帯電話番号で登録できるサービスも多く、身分証番号と携帯電話番号が漏えいすると厄介だ。

 人々は身分証番号を漏えいさせまいと構えている。が、情報漏えいはニュースにならないほど日常化していて、被害に合う人は多い。Q&A掲示板にいくつもある「身分証番号が漏えいしたらどうすればいい?」という質問には、「身分証番号を盗まれるだけなら大きな問題はない」という回答ばかりが並ぶ。

 それでも漏えいの規模が大きければニュースとなる。2014年12月には、オンラインで切符が買える唯一のオフィシャルサイトである中国鉄道部のサイト「12306」に、ハッカーの攻撃があり、ユーザー名とパスワードに加え、身分証番号、携帯電話番号、メールアドレスが大量に漏洩した。鉄道部の切符予約サイトといえば、毎年システムの強化を図るも、春節の民族大移動を前にシステムが追い付かなくなることで、ネットユーザーの間では比較的有名である。サイトでは身分証番号で鉄道の切符を購入するのだが、このとき少なくとも13万件超の個人情報が漏えいし、漏えい発覚から時間が経たぬ間に、個人情報販売業者から「何十万の個人情報販売」「何Gバイトの個人情報販売」といったスパムメールが駆け巡った。国の習慣の違いか、鉄道部から漏えいに関する謝罪はなく、発表は犯人の逮捕についてだけだった(過去の高速鉄道脱線事故については謝罪している)。

 また7月には、14歳になる警察官の娘が、母親の働く警察署に遊びに行き、署内の端末を操作して芸能人の身分証情報を抜き出してばらまくという事件が起きた。母親の警察官は停職処分となった。身分証に掲載された化粧をしていない、芸能人の素の写真も漏えいしたため「本当の顔はこうなのか」と話題になったが、その一方で身分証番号に目を付けた人もいた。

 身分証番号を得ると、本人になりすましてサービスを利用できるだけではない。身分証番号と電話番号などの個人情報を使って、サービス提供者にコンタクトを取り、漏えいした人のユーザー名やパスワードなどのアカウント情報を教えてもらい、サービス利用状況、本人が内緒にしていたプライベートをも知ることができるケースもある。こうやって芸能人の素性を知ろうとアクションを起こしたファンや野次馬もいた。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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