北川裕康「データアナリティクスの勘所」

ICTという言葉が私は好きではありません

北川裕康 2015年09月25日 07時00分

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 日本では、多くのITベンダーや官公庁で「ICT」という普通に言葉を使っています。私は、宣伝文句などでICTという言葉を目にするたびに、ICTではなくInformation Technologyの略である「IT」をシンプルに使えばいいのではないかと思います。それに、日本以外の諸外国でICTという言葉を積極的に使っているところは、私が不勉強なだけかもしれませんが、ほとんど見ることはありません。IT部門はあってもICT部門は、ほとんどないと思います。


 ComputerとCommunicationの融合ということで、NECが70年代にC&Cをスローガンに提唱した当時、日本の強みであった通信技術としてCommunicationを強調できるので業界全体で「それはいいね」という雰囲気がありました。Computerがネットワーク技術を含めて包括的なITに進化した際にも、Communicationをつければ日本のIT業界の差別化になると考えたのだと思います。

 ではなぜ私がICTという言葉が好きでないかというと、Communication技術も立派なInformationを伝達するInformation Technologyであり、あえて言及する必要がないのではないかと思うからです。

Communication技術はもはやITの差別化要因にあらず

 わざわざCommunicationというほど、今Communication TechnologyがITの差別化の要因にもならなくなっています。Ethernetが、10Gbps、40Gbps、100Gbpsの伝送速度になってきて、それはそれで凄いことだと思います。昔のコンピュータの内部バスより、外部のネットワークのほうが速いのですから。しかし、それよりもTechnologyで活用できる、活用されるInformationそのものが最重要だと私は考えています。

 情報化の時代です。例えばインターネットは、登場した当初はCommunication技術でしたが、最近ではIoT(モノのインターネット)や“Hyper Connected Consumer”などと、インターネットにつながっている”こと”や”人”や”モノ”、そして、それらが生成するデータに重きが置かれています。

 同じように、ビッグデータの広がりによって、Informationそのものの価値に光が当たっています。Informationを活用して、どのようにビジネスやサービスに付加価値を持たせるかが、企業、さらにいうと国の競争力を左右するようになっています。私は、BtoBのマーケティングを担当していますが、仮に「2つ何かをあげるから、今の会社から独立しなさい」と言われれば、迷わずに「顧客データ」と「マーケティングのスタッフ」をありがたくいただきます。もちろん法律が許せば、です。データを活用するITシステムは買うことができますが、顧客データ=Informationとデータ活用できる優秀なスタッフは買うことができません。

Informationを資産化するために何が必要か

 日本では特に最近”データ活用”の重要性がうたわれていますが、それはすなわち、Informationをお金やモノとならぶ資産としてとらえる必要があるということです。

 Informationを資産にするためには、業務プロセスや意思決定での“当たり前”の活用が不可欠であり、そのためにはアナリティクスが1つの鍵になります。アナリティクスには単純なレポートから多様なサイエンスやアルゴリズムがありますが、多くの市場調査によって、予測型アナリティクスやマイニングのような高度なデータ活用をする企業ほど、収益や競争力が高くなる傾向があると分かってきています。

 では、このアナリティクスやデータ活用を企業に浸透させるには、何が重要だと思いますか?


 1つにはもちろんInformation Technologyとして、優れたITシステムや分析ツールが必要になると思います。最近では、プロセッサの処理の能力だけではなく、インメモリや並列分散処理の技術が飛躍的に向上して、大量のデータが高速に処理できるようになりました。これがビッグデータや機械学習のブームに火をつけたと言えます。しかし、それはデータ活用の基盤の技術です。より大事なことは、データ品質も含めたデータ管理、データ活用する人材、そして、事実をベースに意思決定をする企業文化です。

 少し詳しく解説します。データ管理は、お分かりのようにデータの品質が悪ければ、いくら高度な処理をしても、悪い結果しか出ないものです。当たり前の話ですが、結果の品質には、そのシステムへの入力の品質に依存します。

 人材については、データサイエンティストのような夢の人材も大事でしょうが、データ活用を企業に浸透させるためには、IT部門、データ分析者、業務担当者のコラボレーションがとても大切になります。ちなみにデータサイエンティストは、ITとサイエンスをツールに使い、潜在的な課題の解決や機会をビジネスチャンスに変える社内のイノベーターであり、ビジネスリーダーだと私は定義します。ですから、なかなかめったにいませんし、セクシーな職種といわれるのです。

”IT”は情報活用化の時代を適切に表す

 IT部門、データ分析者、業務担当者(そして、データサイエンティスト)のコラボレーションを促進するには、全員が理解できる共通の言語が必要で、それは企業文化やリーダーシップ力だと思います。そして、事実をベースに意思決定する企業文化を形成するには、企業経営者の役割も大きいと思います。意図した企業文化の形成は、トップダウンアプローチしかないです。

 日本のIT投資を見ていても、確実に基幹系から情報系に、経理や売り上げなどのバックオフィスから顧客エクスペリエンスなどのフロントオフィスに、IT投資がInformationに向かって急速にシフトしてきています。私はこれが正しい進化だと思います。Information Technologyという言葉は、情報活用化のこの時代を適切に表しているように思えます。日産自動車のゴーン社長はスローガンを作るのが非常にうまいと最近聞きました。言葉は戦略を表す上でとても大事です。この時代、ICTにまだこだわりますか?

北川裕康
SAS Institute Japan 執行役員 マーケティング本部 兼 ビジネス推進本部 部長。SAS入社以前は、シスコシステムズのマーケティング本部長、日本マイクロソフトの業務執行役員を務め、BtoBマーケティングで20年以上の経験を持つ。

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