「五輪にはボランティアで働けるエンジニアが必要」発言の真意を聞く - (page 2)

大河原克行

2015-10-16 07:00

 2つめには、元請け、下請けによる多重構造がある点。調査をすると「元請けとの打ち合わせは午後11時からと言われた」という声が出ていた時期もあった。そうしたことがいまだに一部にあることは理解している。また、こうしたことが極端にクローズアップされているのも事実だ。

 だが、このような多重構造は、今後は成り立たなくなっていくだろう。そのなかでは、SIer同士の合従連衡のような動きも出てくる可能性もある。また、これまで力がなかった3次請け、4次請けといった企業が新団体に加盟することで元請けと対等に話ができるようになるということにもつながるはずだ。

――独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発行した「IT人材白書 2014」では、給与・報酬に対して「満足していない」「どちらかと言えば満足していない」という回答が45.3%と半分近くに達している。この点でも正当な給与がもらえていないという業界の課題が浮き彫りになるのではないか。

荻原紀男氏
荻原氏は豆蔵ホールディングスの代表取締役社長が本業

 今は過渡期だと考えている。これから多重構造が崩れていくと話したが、クラウド時代やIoT(Internet of Things、モノのインターネット)時代を迎えて、多重構造はフラット化していくのが自然の流れだと思っている。一部の企業では、これまでのように顧客の要望を聞いて、それを期日通りに仕上げるという体質から脱皮しようとする動きもある。次に何が求められるのかということを知り、先にこちらから提案するといった動きである。これも多重構造からの脱却に向けた動きだ。

 また、IoTによってハードウェアとソフトウェアが別々であった時代が終わるとともに、さまざまな業種、業界でITエンジニアが求められる時代がやってくる。エンジニアはますます不足するのは明らか。そうすれば、自然と給与は上昇する。

 今はその入り口にいると判断している。これから日本のエンジニアの給与は上がっていくはずだ。そして、それを加速するためには、エンジニア自らが次に求められるものを提案する仕事へとシフトしていかなくてはならない。日本IT団体連盟も、そうした動きを支援していくことになる。

――エンジニアの労働条件を高めるためには、労働組合という手法もあるのではないか。

 エンジニアは力を持った人材のことを指す。どんな企業に行っても活躍できる技量を持っているはずだ。そうした業界で労働組合の存在はあわない。

30年を経て初めて業界がひとつになるチャンス

――日本IT団体連盟には、CSAJと並ぶ代表的なソフトウェア関連団体である情報サービス産業協会(JISA)が加盟を表明していない。

 すでに話をしている。私自身はJISAの参加には手応えを感じている。また、ヤフーなどが参加しているセーファーインターネット協会(SIA)が、新たに日本IT団体連盟に加盟することになった。今後、総務省が管轄する社団法人テレコムサービス協会にも積極的に参加を呼びかけていく。

 私は新団体の会長になろうとは考えていない。いや、絶対にならない。設立準備に関わった一般社団法人全国地域情報産業団体連合会(ANIA)会長の長谷川亘氏、全国ソフトウェア協同組合連合会(JASPA)会長の中島洋氏、特定非営利活動法人日本情報技術取引所(JIET)理事長の酒井雅美氏も新団体の会長にはならないと宣言している。

 色の付かない人を会長に据えたいと考えている。会長になりたいとか、理事にしがみつきたいという気持ちはまったくない。今大切なのは、業界をどう発展させるかということ。そのためには、人材育成も必要であり、海外の企業に打ち勝つための体力や仕掛けも必要。そして、国に対して提言できる力をわれわれの業界として持つことが必要だ。

 私は、政策推進のために官学を回りたい。その活動を通じてエンジニアの教育予算を獲得したい。だが、「これをやれ」と言われたら、「はい、わかりました」といって、業界のために役に立つことをしたい。

 私は豆蔵ホールディングスの社長を務めているが、新団体の活動が会社の利益に役立つことはひとつもない。サイバーディフェンスを強化しても、豆蔵ホールディングスの業績にはなんら影響しない。

 だが、今、30年の時を経て初めて業界がひとつになるチャンスを得た。このチャンスを生かしていきたいと考えている。海外から要人が来て、日本のIT産業のトップに会いたい思ったときにどの団体のトップに会えばいいのか、経済産業省や総務省が悩むようではいけない。

 今後、30年かかるのか50年かかるのかわからないが、将来的にはハードウェアの業界団体まで含めて、IT業界団体をひとつにしたい。これは、業界の発展のためにも必要な取り組みだと考えている。

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