クラウドアプリケーションで普及した代表的な分野といえばCRMだが、ここにきてERPの普及にも弾みが出てきたようだ。果たして、どうすればさらに加速するか。
NetSuite幹部が語る「SAPやOracleの参入は大歓迎」
「当社は1998年の創業以来、クラウドERPの専業ベンダーとして実績を重ね、今では年間売上高も10億ドル規模になった。ここ数年はその成長率も年率30%を超えており、まさしくクラウドERPのナンバーワンベンダーとして、今後もさらなる躍進を遂げていきたい」
記者会見で話す米NetSuite戦略&経営企画担当エグゼクティブバイスプレジデントのJason Maynard氏
こう語るのは、米NetSuite戦略&経営企画担当エグゼクティブバイスプレジデントのJason Maynard氏だ。同氏をはじめ同社幹部がこのほど来日して記者会見を行い、事業戦略とともに、日本法人社長にアップルやマイクロソフトの日本法人で要職を務めた中西智行氏を起用したことを発表した。Maynard氏の冒頭の発言はその会見で、同社の現状について語ったものである。
会見の内容は関連記事 を参照いただくとして、ここではMaynard氏の発言も交えて、クラウドERPの今後の行方について筆者なりの視点で探ってみたい。
クラウドERPをめぐる最近の動きで注目されるのは、これまでオンプレミスのERPで確固たる存在感を保持してきたドイツのSAPや米Oracleが、ここにきてクラウドERPに相当な勢いで注力していることだ。この動きはNetSuiteにとっても脅威なのではないか。会見の質疑応答でそう単刀直入に聞いてみたところ、Maynard氏は次のように答えた。
「当社には長年にわたってクラウドERPに特化して蓄積してきたノウハウがある。SAPやOracleはオンプレミスでは実績があるが、クラウドネイティブなERPについては手をつけ始めたばかりだ。その機能や使い勝手は、当社が相当先行していると自負している。むしろ両社がクラウドERPに本格参入してきたことで需要が高まり、当社にとってビジネスチャンスが広がると考えている」
こうした返答はある程度、予想していたが、なかなかの自信である。Maynard氏の思惑通りに需要が高まれば、クラウドERPの普及はさらに加速するだろう。
クラウドネイティブベンダーは“指名買い”を増やせ
もう1つ、クラウドERPをめぐる動きとして、クラウドCRMと対比した見方を示しておこう。前者の先駆者がNetSuiteならば、後者の先駆者は米Salesforce.comである。
実は、両社はいずれもOracleとの関係が深い。Salesforce.comの最高経営責任者(CEO)のMarc Benioff氏はOracle出身で、Oracle創業者で会長のLarry Ellison氏との親交も深く、創業にあたってEllison氏から出資も受けている。一方のNetSuiteもEllison氏が共同出資して創業し、一時期は会長を務め、今も経営のアドバイスを行っている。創業もSalesforce.comが1999年3月、NetSuiteが1998年10月と、ほぼ同時期である。
だが、創業から17年ほどが経ち、実績では大きな差がついた。Salesforce.comは今や売上高70億ドル規模。これに対しNetSuiteは10億ドル規模で、7倍もの違いがある。
これだけの規模の差がついた大きな要因は、Salesforce.comがCRMを手掛けてきたのに対し、NetSuiteはERPを推進してきたからにほかならない。CRMはいち早くクラウドサービス時代の波に乗り、SaaSの代表的なアプリケーションとして利用されるようになった。その牽引役をSalesforce.comが果たしてきたのである。
一方、ERPは企業の基幹システムだけに、クラウドへの移行には慎重なユーザーが今も少なくない。CRMが「攻めのIT」なのに対し、ERPは「守りのIT」とも目されているからだ。ただ、クラウドERP専業のNetSuiteがここにきて好調に推移しているところを見ると、その風潮も少しずつ変化してきているようだ。
では、NetSuiteのようなクラウドネイティブベンダーが今後パートナー展開をさらに広げ、事業を拡大させていく決め手になるポイントは何か。それは端的に言うと、どれだけユーザーからの“指名買い”を増やせるか、ではないか。Salesforce.comがパートナーを増やし、事業を拡大させてきた原動力もまさにそこにあると、筆者は認識している。
前述したように、SAPやOracleがここにきてクラウドERPに相当な勢いで注力し始めている。おそらく、これから需要の大きな“山”が動き出すだろう。そうした中で、NetSuiteのようなクラウドネイティブベンダーが、CRM分野におけるこれまでのSalesforce.comのような役回りを果たすことができれば、クラウドERPの普及はさらに加速するだろう。クラウドERPをめぐるベンダーの戦いは、これからが本番である。