6月24日に開催された「Nikkei FinTech Conference 2016」において、「地銀×Fintech、動き出した風土改革」と題したパネルディスカッションが行われた。パネリストは、ふくおかフィナンシャルグループ(ふくおかFG)営業企画部部長代理兼iBankマーケティング代表取締役の永吉健一氏、山口フィナンシャルグループ(YMFG)営業戦略部副部長の北川信之氏、広島銀行総合企画部企画室担当課長の石原和幸氏の3人。モデレーターは日経FinTechの岡部一詩記者が務めた。
パネルディスカッションの様子
ふくおかFGはスマートフォンを使った新しいサービスプラットフォーム「iBank」によるサービスを7月下旬から開始予定だ。「スマホアプリに情報コンテンツを配信し、ワンタップで目的預金や貯金ができる。お得なクーポンなどを途切れなく配信したいと考えている。地域展開モデルで、金融以外のサービスも用意している」(永吉氏)とした。
広島銀行は2015年から2016年2月まで、電子マネー方式のプレミアム付き商品券「HIROCA」のサービスを展開し、4月以降は地域電子マネーとしてHIROCAを再度利用できるサービスを開始した。石原氏は「もう1つ、こちらは構想段階だが、企業の事業評価を変えたいと考えている。財務データや担保への依存度を減らし、取引先や事業の強みや弱みを分析して自動でより多くの金額を融資できるようにしたい」と語った。
YMFGは商品やサービスを企画する営業戦略部の取り組みを紹介した。1つはクラウドファウンディングで「従来は専門の会社と提携するパターンが多かったが、自分達で投資型のクラウドファイナンスをしたいと考え1年前から取り組んでいる。当初は案件を増やすのに四苦八苦したが、広島でハロウィンの仮装イベントに投資するなど、地域の盛り上がりに貢献できるようになった」(北川氏)
FinTechを始めたきっかけ
ここで岡部記者が「FinTechという言葉が広まってきたため、銀行ではトップダウンで何かしらやれ、と言われているケースが多いと聞く。各行の取り組みはどのように始まったのか」と質問した。
YMFGは「数年前にネットバンキングを強化しようという話になり、見積もりを取ったら物凄い金額で、特に運営コストが高く断念した。何か別の手がないかと考えていたところ、マネーフォワードの人と話す機会があった。『個人資産管理で提携すれば効果が上げられる』と考え、社内で提案してボトムアップで取り組んだ」(北川氏)
ふくおかFGのiBankの最初の構想は2年半前だったという。「まだ世の中にFinTechという言葉がなかった時期。お客様起点で面白いものを作りたい、それも顕在化していない、潜在化しているニーズを探そう、ということから始まった。銀行が作ったFinTech企業は珍しいと思う。現状のサービスの課題は使いやすさで、より使いやすくするには勘定系とどこまで連携できるかが重要になる」(永吉氏)
広島銀行は「企業の事業評価の取り組みで言えば、例えばマツダのサプライヤーの中で、『この部品がないとマツダの車が作れない』というキーになる企業がある。そういった企業は経営が苦しくなっても必ず残る、ということは前から分かっていた。こうした企業をうまく評価するための仕組みを作りたい、というのがそもそものきっかけで、現在はこれを全業種に広げる取り組みを進めている」(石原氏)
地銀が地方創生の主役になるために
最後に岡部記者は「地方創世というキーワードで、地銀は主役の役割を果たすことを期待されている。この視点ではどのように考えているか」と聞いた。
広島銀行の石原氏は「本来的な地銀の役割は地域の企業をいかに育てられるかだと考えている。それぞれのステージに応じた支援をどれだけできるかが大切になる。そこにFinTechの技術を適用出来るか考えるのがわれわれの役割だ」と語った。
YMFGの北川氏は「FinTechのスタートアップ企業とうまく協力出来れば、サービスを簡単、便利、安価にできる。地方は都市部とはインフラが違う。例えば、山口でICカードを読めるところは数カ所しかない。そういった状況も踏まえて、FinTech企業とのコラボレーションが大事になると考えている」と話した。
ふくおかFGの永吉氏は「法人の企業はいろいろな県に進出している。1つの地域だけが元気でもあまりよくないので、これからは各地域のローカルシステムを関連付けることも必要になるだろう」と語った。