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プログラミング必修化を前にユーザー数1.8倍の9万人に:Scratch Dayレポート

取材・文:神谷加代 構成:羽野三千世(編集部)

2016-08-16 07:00

 東京大学 本郷キャンパス情報学環・福武ホールで5月21日、子供向けのプログラミングイベント「Scratch Day 2016 in Tokyo」(主催:Scratch Day 2016 in Tokyo実行委員会、共催:NPO法人CANVAS)が開催された。

 Scratch Dayとは、子供向けビジュアルプログラミング言語「Scratch」のお祭り。毎年5月に世界各地で同時に開催されており、Scratch関連のワークショップや作品の展示、講演などを通して、プログラミング教育の普及やScratchユーザーの交流を目指す。2016年は世界659カ所、国内10カ所でイベントが行われた。

 今年のScratch Day in Tokyoで注目したいのは、小学校におけるプログラミング教育必修化の動きを受けて、既に現場でプログラミングの学習を実践する教育関係者らが登壇したことだ。現場目線で語られるプログラミング教育の課題や可能性に聴衆は耳を傾けた。また、今年3月に放映され、Scratchの知名度を上げたNHKのプログラミング教育番組「Why!?プログラミング」のディレクターも登壇。番組の制作経緯や裏話について語った。会場には、多くの親子連れや教育関係者らが詰めかけ、プログラミング教育への盛り上がりを感じたイベントになった。


Scratchの登録ユーザーは1年で1.8倍増

 Scratch Dayのオープニングでは、Scratchの第一人者で同イベント実行委員長 阿部和広氏が登壇し、プログラミング教育やScratchの動向について語った。

 阿部氏は、4月に開催された産業競争力会議の中で、初等中等教育におけるプログラミグ教育の必修化が言及されたことについて触れ、「今年はプログラミング教育が大きく動いた」と述べた。その背景には、第4次産業革命の時代を迎え、社会的にもIT人材不足の問題が深刻化していると指摘。プログラミング教育の必要性が叫ばれているが、小中学校においては人材育成の視点よりも、プログラミング学習の過程にある“ものづくりを通して学べる”視点を取り入れることが重要だと主張した。自分のアイデアを表現する新しいツールとして、また、新しい学び方を学ぶ手段として、プログラミングが学校教育の中に入っていくことが重要だというのだ。


Scratchの第一人者でScratch Day 2016 in Tokyo実行委員長 阿部和広氏

 また近年は、多くのメディアがプログラミング教育を取り上げ、保護者や教育関係者の関心が高まっている。阿部氏によると、その関心の高さは数値的にも示されており、日本国内のScratch登録ユーザーは2015年に5万人だったのに対し、2016年は9万人にまで増えた。約1.8倍の伸び率で、今までにない関心の高さを示しているという。

 こうしたScratchのユーザー数や保護者のプログラミング教育への関心に大きな影響を与えたのが、2016年3月にNHK Eテレで放映されたプログラミング教育番組「Why!?プログラミング」だ。同番組は、お笑い芸人の厚切りジェイソン氏が進行役を務め、プログラミングの基本概念についてScratchを通して学ぶことができる。同番組の監修を務める阿部氏が「番組放映後は、Scratchの新規ユーザー数が大幅に伸びた」と語っており、Scratchの知名度アップにも貢献した。


NHK Eテレ「Why!?プログラミング」番組ディレクター 林一輝氏

 Scratch Dayには、「Why!?プログラミング」の番組ディレクターである林一輝氏も登壇した。制作経緯について林氏は、「プログラミング教育が子供たちの間で広がってきており、NHKとしては真っ先に取り組むべきだと考えていた。チャレンジングな番組ではあったが挑戦したいと思った」と語る。

 同番組は、進行役の厚切りジェイソン氏が何度も失敗をするのがポイント。「プログラミングの基本は試行錯誤。間違ったとしても何度もやり直して、なぜ間違えたのかを考える大切さを伝えたかった」と林氏は番組に対する思いを語る。ちなみに「Why!?プログラミング」は、NHK for SchoolにてタブレットやPCから無料で視聴することができるという。

小学校のプログラミング教育義務化、現場の課題は?

 Scratch Dayでは、小学校におけるプログラミング教育必修化の動きを受けて、鼎談「どうなる2020年プログラミング学習義務化・公立小中学校はどう取り組むのか」と題し、現場でプログラミング教育の実践や普及に取り組む教育者らが登壇した。


小金井市立前原小学校長 松田孝氏(前・多摩市立愛和小学校長)

 前任校の多摩市立愛和小学校で2年間、プログラミグ学習に取り組んできた松田孝氏(現・小金井市立前原小学校長)は、「プログラミング教育は盛り上がってきているが、肝心の教師からの反応がほとんど聞こえてこないのが現実だ」と指摘した。そんな現場の教師に対して、まずは子供が実際にプログラミングを学ぶ姿を見てほしいと松田氏は訴えた。プログラミング学習では、子供同士の教え合いや学び合いの場面が多く見られ、今までの授業にはない子供の変容に気づくことができるというのだ。一方で、松田氏は、「プログラミング学習においては、教師自身が授業観を変えることが重要だ」と指摘した。子供によっては、教師が持つプログラミングのスキルを越えてしまう場合もある。学習者主体の新しい学びを教師がどこまで受け入れられるかが大切だというのだ。


茨城県古河市教育委員会教育部参事兼指導課長 平井総一郎氏

 古河市教育委員会 教育部参事兼指導課長 平井総一郎氏は、市内の小学校でプログラミング教育の導入や実践に携わる。その経験を踏まえて、「公立小学校では、どの先生もプログラミングを教えられることが大切で、そのためには教員の研修が欠かせない」と述べた。古河市の場合も、現場の教員たちはプログラミングの授業を実践する前に、専門家から研修を受けたと明かす。一方で、平井氏は、「プログラミングを広げていくためには、学校だけでなく、地域の活動やイベントとして子供が学べる受け皿を増やしていくことが大切だ」と語る。さまざまな企業や研究者らとのつながりを増やしながら、より面白いプログラミング学習を実現していきたい考えだ。

 古河市教育委員会は既に、プログラミング関連のイベントを地域活動として取り入れる動きを見せている。今回のScratch Dayにおいても開催地のひとつに名乗りをあげ、「Scratch Day 2016 in KOGA」(主催:古河市教育委員会・シェアウィズ、共催:許我未来塾(こがみらいじゅく))を実施。地元の子供たちを対象にScratchなどのワークショップを行い、プログラミング教育の啓蒙に力を注いでいる。平井氏は「少しずつでもやっていかなければプログラミングは広がらない。地方でもアイデアを出しながら新しいうねりを作っていきたい」と意欲を語る。



茨城県古河市で開催された「Scratch Day 2016 in KOGA」の様子

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