ARMはモバイル分野だけでなく、スーパーコンピューティング分野にも狙いを定めている。
ARMは米国時間8月22日、カリフォルニア州クパチーノで開催された半導体関連のカンファレンス「Hot Chips 28」で、同社の「ARMv8-A」アーキテクチャを拡張する「Scalable Vector Extension」(SVE)という、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)分野向けの新たなチップデザインを発表した。
この新デザインによって、CPUデザイナーは対象とする分野や市場に応じて、ベクタレジスタのサイズを128ビットから2048ビットまでの間で自由に選択できるようになるため、「AArch64」(64ビット実行状態)におけるベクトル演算処理能力を大幅に向上させることが可能になる。またSVEによって、先進的なベクトル化コンパイラの使用が可能になり、既存コードからより粒度の細かい並列処理を抽出できるようになる。
ARMのフェローであるNigel Stephens氏は、同カンファレンスでの発表を伝えるブログ記事のなかで「今日の気象学や地質学、天文学、量子物理学、流体力学、薬学研究といった分野では膨大な量のデータが蓄積されている」と記している。同氏は、HPCシステムが今後5年から10年の間に、エクサスケールコンピューティングを視野に入れるようになるとし、「データアナリティクスや、視覚情報処理、機械学習といった分野での進歩を合わせて考えた場合、今日におけるプログラム実行処理の並列化を未来に向けて推し進めていくというニーズは既に高まりを見せている」と記している。
今回発表されたデザインは、ARMがエクサスケールコンピューティング競争に乗り遅れまいとしていることの表れだと言える。エクサスケールコンピューティングとは、処理性能がエクサFLOPS、すなわち1秒間に浮動小数点数演算を1000兆回以上実行できるペタFLOPSクラスのコンピュータの1000倍程度高性能なコンピュータによって実現されるものだ。HPC分野では、AMDやIBM、Intelが競い合っており、国家レベルでも同分野の覇権をかけた争いが繰り広げられている。
PCWorldの報道によると、この新たなチップデザインを最初に採用するのは、富士通が手がけるスーパーコンピュータ「京」の次世代機になるという。
今回の発表は、ソフトバンクがARMを314億ドルという巨費を投じて買収し、IoT市場に向けた長期的な戦略を遂行すると発表したおよそ1カ月後に行われた。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。