ウォーカーマシンと「つもり制御」
ロボットの操縦に関してたいていのアニメーションでは「適当な操作」以上の描写はしないことを逆手にとったようなのが、サンライズのアニメーション「戦闘メカ・ザブングル」に登場するロボット、ウォーカーマシン(の一部のもの)に見られる操作である。操縦かんが、自動車のハンドルになっているのだ。
設定意図としては、このハンドルに限らず、駆動するのがガソリンエンジンであったりと、身近な世界に実際にあるものを取り入れて馴染みやすい世界観を演出するため、というようなことがあったらしい。視聴者がストーリー世界に何か干渉するというものではなく受動的に観る一方の世界であり、とても間接的な部分であるが「UXを考慮した」デザインと言ってもよいであろう。
とはいえ、「ハンドルでどうやって制御するのか」というのは誰しも気になってしまうポイントでもある。これに関して、公式な設定かどうかは確認できていないが、「ハンドルの角度によってとるポーズが決まっている」という説明を聞いたことがある。操縦の難易度は非常に高そうだが、なんとなく納得してしまう説明である(「なんとなくでも納得感がある」説明というのは、SFにおいて重要である)。
この制御方法のアイデアは実は全くの荒唐無稽というわけではない。大阪大学の前田研究室の丹羽氏らによる「つもり制御」は、ユーザーがコントローラに対して「ある意図」のもとに行った「操作」を、計算機側が学習することにより、その「操作」に対して「意図」どおりの反応を返せるようにするというインターフェースである。ハンドルでロボットを操縦するには遠いかもしれないが、それと似たようなことは可能なのである。
ゆうきまさみの「パトレイバー」に出てくるロボット、レイバーのように、「バランスをとる」などの基礎的な部分(人間ならば小脳が担当しているような部分というところであろうか)は"OS"(オペレーティングシステム)が担当するといったシステムと組み合わせれば、案外、とても近いところまで行けるかもしれない。
逆に、自動運転の車において、ユーザーの「操縦したい」という願望をうまく満たしつつ、実際にはユーザーの操縦とはほとんど関係なく自動的に制御されているといったことも考えられる。UX的にはそれはどうであろうか。
想像と現実
想像の世界と現実の技術・研究などを行き来しつつ、ヒューマノイドロボットと人間の間のインターフェース、それによりもたらされるUXについて考えてきた。SFの領域で考えられてきたことでも、自動運転車のUIやUXをどうデザインするかなどの点では既に現実の課題でもある。
フィクションであってもしっかりと考えられた思考実験は有益な知見をもたらしうるし、ほんの思いつき程度のものでも何か重要なアイデアのきっかけとなるかもしれない。そうした世界にも「観察」の幅を広げ、よいUXやUIのデザインにつなげていただきたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。