今回はIT業界やビジネスの巨人とアートに関するエピソードを紹介する。
開発とアート
2005年に米国、カリフォルニア州で設立され、既に1400社以上のスタートアップに投資を行ってきたベンチャーキャピタル、YコンビネーターLLC。
この会社名を知らなくともDropbox社やAirbnb社を育てあげたベンチャーキャピタルと言えばピンと来る方が多いかもしれない。
このYコンビネーターLLCを設立した中心メンバーがポール・グレアムである。彼はユーザーがインターネットでショッピングができるアプリケーションViawebを開発しヤフーへの売却によって巨万の富を得たプログラマーだ。
彼の経歴はとてもユニークだ。哲学の学士号を取得したのちにコンピューターサイエンスの分野で修士号と博士号を取得し、その後に米国のロードアイランドデザインスクールとフィレンツェの美術学校で絵画を学んだのである。
また彼はエッセイイストでもある。彼の著書、”ハッカーと画家—コンピューター時代の創造者たち“はとても興味深い。
エンジニアがアプリケーションやシステムを構築してゆくのと画家が絵を完成するまでの思考法やプロセスがほぼ同じであり、エンジニアリングとドローイング(絵を描くこと)はほぼ同じ行為であると述べている。
哲学、サイエンス、アート、3つの学問を学び、ECのアプリケーション開発で成功を収め、数々のIT企業をインキュベートしている彼は、クリエイティブ(創造)の本質を誰よりも知っているのかもしれない(念のためであるが、ここで言われているハッカーとはコンピュータ技術者のことであり、ウイルスを作成したり不正にネットワークに侵入をする人々を指すものではない)。
ウォールアートで埋め尽くされているFacebook社
Facebookの本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。天井高くまで緻密に描かれた絵もあれば、ニューヨークの地下鉄を想起させるような、落書き風の絵もある。社員が毎日描き加えるのが認められている壁もあれば、ザッカーバーグ自らスプレーを吹きかけた壁もある。
応接室や会議室に絵画を掛けている会社は多い。しかし、Facebookのウォールアートがユニークなのは、ほとんどが未完成であり、社員が描き足していくことが良しとされていることにある。ここが一般の会社と違っていてとても興味深い。
余談だが、最初の本社オフィスペインティングを手掛けた若手の画家はその後、ストックオプションを行使して億万長者になった。株式上場をしたおかげで2億ドル(約200億円)もの富を得たのだ。
マークザッカーバーグは単なるアートファンではないはずだ。アートに囲まれたクリエイティブな環境で仕事をすることによって常にイノベーションを起こす芽を培っているのかもしれない。