ITリーダーには「創発」できる取り組みが必要
アクセンチュア クラウド推進事業本部 マネジング・ディレクターの市川博久氏
アクセンチュア クラウド推進事業本部 マネジング・ディレクターの市川博久氏は、「先読みしづらい時代におけるITリーダーの役割」と題して、イノベーションを生み出すためにITリーダーに求められるものを説明した。
まず市川氏は、情報技術革新の急激な進行や、日本の競争力低下、「モノからコト」への消費の変化、長寿化や持続可能性などの課題に触れ、現在はイノベーションサイクルの短縮化が起きていると説明。これまでは「生産性向上、課題解決力、方法論」が求められていたが、現在では「新たな価値創造、課題設定力、創発」が必要になるという。
特に市川氏は「創発」の大切さを指摘した。クラウドやデジタルの本質は、企業に試行錯誤を許す基盤を与えるところにあるとし、「チームのなかで多種多様なバックグラウンドと価値観を持った人間が、1人では導き出しようのない答えを組織として創発的に生み出していく世界が出てきている」と語る。
また、企業規模が小さくてもイノベイティブな企業はコア業務を含めたクラウド活用で急成長を遂げており、クラウド化の波は大企業にも押し寄せていると説明。実際に、一領域だけではなくレガシーアプリケーション資産を一気にクラウド化したいという話も増えているそうだ。
ただし、「クラウドのメリットを最大限享受するには、組織横断的で重層的な取り組みが求められる」という。試行錯誤ができるIT基盤を実現するには、開発のスピードと柔軟性が融合する必要があり、アプリケーションポータビリティも高めなければならないからだ。同社の調査では、50%以上の企業役員はクラウド化を重視している一方で、部長クラス以下では30%未満と認識のギャップが大きいとのこと。
新たな価値創造、課題設定力、創発のできる重層的な取り組みが求められる一方で、チェンジメーカーとなることやリスクへの恐怖は残っている。そこでは、創発が最も重要になり前半のセッションでも出てきた「ポッセ」を、日本的な感覚で「悪ふざけをするような仲間」のイメージに捉えたチームビルディングをしても良いのではないかとのこと。これまでとは違う役回りのリーダー像が求められていると締めくくった。
試行錯誤がイノベーションのトリガー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任講師 若新雄純氏
セミナーの最後は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任講師の若新雄純氏が「ビジネスにおけるイノベーションのトリガー」と題して、自らの研究をもとにイノベーションを生み出すために必要なものの話をした。
若新氏は、企業や自治体との取り組みを通して、働き方や新しい組織のあり方を研究しているという。「従来の研究機関では、専門家が集まって“正しいであろう”方針を打ち出していたが、専門家に聞けば答えがわかる問題だけではなくなっている」という理由から、「みんなで試行錯誤することに注目」し、その試行錯誤から新しい価値が生まれるかを実験しているとのこと。
その一例として、自身が立ち上げたNEET株式会社の例を紹介。ニートをどう捉えるかを、ニートである人々と試行錯誤するというもので、現在も実験段階だという。同じく、新しいまちづくりとイノベーションの実験として、女子高生が地域づくりに関わる「鯖江市役所JK課」の取り組みも紹介した。ここでも、女子高生自身によるアイデアの実行を支援する仕組みにしており、ゴールは決めなかったという。「計画のない試行錯誤だからこそ生まれるものがある」という考えが背景にはあるとのこと。
これらの経験を踏まえ、若新氏は、「イノベーション=問題解決ではない」と提示。「日本社会において、明らかな問題があり、簡単に解決できるものはなくなっています。付加価値をつける活動が求められているのです」とした。企業活動のなかで試行錯誤を可能にするには、業務を現在の80%でできる効率化を成し遂げたら、余った20%を成果や評価を気にせずに試行錯誤をする“出島”にすることを提案。試行錯誤そのものを充実させるのがイノベーションのトリガーであると締めくくった。