海外コメンタリー

官民連携でランサムウェア対抗、「No More Ransom」始動1年--取り組みと展望

Danny Palmer (ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2017-08-07 06:30

 ランサムウェアは大きな問題だ。最近になって「WannaCry」や「Petya」が話題になったことで、にわかに世界的な注目を集めたが、実際には、企業の抱えるサイバーセキュリティの問題として、何年も前からその深刻度を増してきている。

 ランサムウェアの攻撃による被害額は、2016年だけで10億ドルを超えている。ランサムウェアの戦術は単純で、身代金を支払わなければ、データをすべて消してしまうと被害者を脅すだけだ。そして多くの場合、被害企業はサイバー犯罪者に身代金を支払っている。

 世界中の警察機関やセキュリティ企業が、ランサムウェアを止めるためにできる限りの試みをしてきた。これには、警察によるサイバー犯罪組織の検挙や、セキュリティ企業による復号化鍵の発見と提供なども含まれる。

 しかし、犯罪者が国境と時間帯を越えて協力し合う、つながりの強い世界では、それぞれがバラバラにアプローチしていたのでは限界がある。

 それが、1年前に「No More Ransom」の活動がスタートした理由だ。その背景には、警察機関と民間企業が力を合わせて、サイバー犯罪に対抗すべきだという考え方がある。

 欧州刑事警察機構(ユーロポール)のサイバー犯罪センター(EC3)の責任者Steve Wilson氏は、「これは、全員ができることを持ち寄って協力し、今そこにある最大の脅威に立ち向かおうという試みだ」と説明する。

 ユーロポール、オランダ国家警察、McAfee(発足時はIntel Security)、Kaspersky Labが2016年7月25日に立ち上げたプロジェクトであるNo More Ransomは、暗号化されたファイルを復号化するためのツールを提供すると同時に、まずランサムウェアに屈しないで済むための情報を提供し始めた。

 プロジェクトのポータルサイトでは、最初に「Shade」「Rannoh」「Rakhn」「CoinVault」の4種類のランサムウェアファミリの復号鍵が提供された。CoinVaultの復号鍵を発見するための共同作業が、No More Ransomの前身となった。

 Kaspersky Labの主席セキュリティ研究者David Emm氏は、「わが社は当時CoinVaultに対する対策に取り組んでおり、オランダ警察と協力して多くの作業を行った結果、サイバー犯罪者が利用していた指令サーバを特定することができた」と述べている。

 この作戦が、Kaspersky Labによる自由に利用できる復号化鍵の公開につながり、ここからプロジェクトが始まった。「この活動は大きな成功を収めたが、これは大きな流れの中のごく一部分にすぎなかった。このためわれわれは、さらに大きな参加の枠組みを確立したいと考えた」と同氏は言う。

 McAfeeも、この(競合する民間企業と、警察機関との間の)共同作業が、ランサムウェアの台頭に対抗するために有効な取り組みであることに賛成した。

 McAfeeのチーフサイエンティストRaj Samani氏は、「協力して一緒に活動するための取り組みがあれば望ましいという感触があった。それと同時に、われわれが無料の復号化ツールを作った時に、ユーザーがそれを見つけられる場所も用意できればいいと考えた」と述べている。

 その場所こそがNo More Ransomのポータルサイトだ。このサイトは立ち上げ時からAmazon Web Services(AWS)とBarracuda Networksによってホスティングされているが、もしクラウドホスティングを利用していなければ、公開1日目にダウンしていただろう。

No More Ransom
No More Ransomのポータルサイトでは、ランサムウェアの復号化ツールと、マルウェアに対処するためのアドバイスが提供されている。
提供:ユーロポール

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