クラウドやモバイルの普及でネットワーク通信量の増加ペースは高まるばかり。IoTや5Gが台頭する2021年はどんな状況になっているのだろうか。シスコシステムズは8月3日、予測精度の誤差が数%以内という「Cisco Visual Networking Index」(VNI)レポートから、未来の様子を紹介した。
米Cisco Systems 戦略・技術・イノベーション担当バイスプレジデントのDoug Webster氏によると、VNIではコンシューマーとビジネスのデータ通信状況をもとに、世界のIP通信を予測する。成長率の予測精度の誤差は10%以内といい、2011年に発表した予想成長率(29.1%)と2016年の実際の成長率(29.9%)の誤差は、わずか0.8%だったという。今回はIP通信、IoT、モバイル、セキュリティの4つの観点から世界と日本における2016~2021年の状況を占った。
IP通信は3倍増
Cisco Systems 戦略・技術・イノベーション担当バイスプレジデントのDoug Webster氏
まずIP通信量の年平均成長率は、世界では24%、日本では26%と予想する。2021年時点で世界は月間278エクサバイト、日本は同14エクサバイトに達し、ともに2016年から3倍に増える見通しだ。Webster氏によれば、増加要因はインターネットユーザー、デバイス、通信速度、ビデオの4つになる。
インターネットユーザーは、2016年から2021年にかけて世界では13億人、日本では500万人増加する。ネットワークに接続するあらゆるデバイスの数は、世界では100億台、日本では6億台増加するとの予想だ。また通信速度は、世界では2016年の平均27.5Mbpsから53.0Mbpsに、日本では67.4Mbpsから103.8Mbpsになる。IP通信でビデオが占める割合は、世界では2016年の73%から2021年は82%に、日本では72%から79%に増えると予想している。
こうしたことから、日本におけるIP通信量の増加は、主にネットワークに接続するデバイス数の増加が主な要因になるもようだ。「ブロードバンド大国の日本では、IoTなどによるデバイス通信が成長のけん引役になる」とWebster氏。ちなみに日本と米国との比較でも、米国は主にテレビの通信、日本はモバイルがけん引役になるという。
モバイルがけん引するIoT
モバイル通信量の年平均成長率は、世界は8%、日本は14%と予想する。デバイス別の割合の変化でみると、世界はスマートフォンが38%から43%に、M2M(Machine to Machine)が10%から29%に高まる。しかし日本はスマートフォンが40%から26%に下がり、M2Mが18%から55%に高まる。
またネットワークの種類別でみると、世界では4G以降とLPWA(Low Power Wide Area)が成長し、2Gや3Gも横ばいもしくは微減する。日本では既に2Gのサービスが終了しているため、4G以降とLPWAが成長の柱になり、特に2018年を境にLPWAの通信量が4G以降を上回る見通しだ。3Gについては、5Gの商用サービス開始が計画される2020年から大きく減少していく。
日本でのM2M接続数は、2016年の約3500万から2021年は約200億に増え、2021年時点ではLPWAが全体の49%を占め、4G以降も39%を占めるという。「日本の場合、家庭内や医療分野でのデバイス接続が増える。高齢者の安全を見守るようなサービスがけん引することになるだろう」(Webster氏)。また、低消費電力と特徴とするLPWAは10年単位での運用が期待だれ、施設の保全管理などは主な用途になる。
日本の5G成長率は世界の2倍以上
IP通信量でみると、世界も日本もモバイル通信の主役は、2016年時点で4Gになっているという。全通信量に占める割合は、世界では69%、日本では94%という状況だ。2021年は、世界では79%と高まるが、日本は94%で横ばいに推移すると予想されている。
5Gは、世界各地で商用サービス化に向けた準備が進んでおり、2020年の前後に開始される見込みだ。VNIの予測では、2021年に全通信量に占める5Gの割合を、世界では1.5%、日本では5%と予想されている。
2020年頃に商用サービスが始まる5Gは、次世代ネットワークの本命になるのだろうか
Webster氏は、「5Gは高効率、低遅延、低消費電力、多数接続が特徴で、期待は高いものの、周波数の割り当てなどが普及の障壁になる可能性がある。しかし日本は、政府の積極的な取り組みもあり、5G普及の障壁はほとんど見当たらない」と解説する。
セキュリティの懸念はDDoS
ネットワーク通信における大きなセキュリティ脅威の1つが、分散型サービス妨害(DDoS)攻撃になる。DDoS攻撃による通信量の増加率は29%で、インターネット通信量の増加率の22%とあまり変わらないという。
特に通信量が1Gbpsと超えるDDoS攻撃の発生件数は、2016年の130万件に対して、2021年には2.5倍の310万件に達する見通しだ。Webster氏によれば、クラウドなどの分散型コンピューティング利用の広がりに応じるかのごとく、DDoS攻撃も増えている状況だという。「ネットワークやサーバ側で適切なセキュリティ対策を講じることがますます求められていくだろう」と話している。
上述の予想に関する各種グラフは下記の画像から参照いただきたい。