今回のシリコンバレー来訪ではSilicon Valley Innovation Center(SVIC)という地元のコーディネーターを頼りにしたが、その話では「シリコンバレーは軍事産業からスタートし、それにサンフランシスコのヒッピー文化が組み合わされた。また、シリコンバレーは一歩外に出ると広大な自然に囲まれていて、ハイテクのエンジニアたちがその自然の中でストレスなく働くことがハイパフォーマンスにつながっている。このように対立し矛盾するように思えるものの組み合わせから世界を変えるイノベーションが生まれている」との説明を受けた。
その時に思い出したのが、カリフォルニアの特殊性を考察した論文「The Californian Ideology」だ。1995年に英ウェストミンスター大学Richard Barbrook と Andy Cameronによって発表された。
20年以上も前に記されたものだが、今読んで見るとあまりに現在の「5社寡占」の状況に当てはまることが多く、驚くほどだ。その内容をいくつか引用すると以下の通りである。
「20世紀も終わりにあたり、長く予期されていたメディア、コンピュータ、テレコミュニケーションのハイパーメディアへの一極集中がついにおこりつつある」
今はこれら全てがスマートフォンに統合されているし、これ以外のさまざまなサービスもスマートフォンに集中している。
「共通のプロトコルをめぐるさまざまなテクノロジを統合することにより、集合以上の何ものかが創りだされつつある。
プラットフォームがさまざまなサービスを統合し、ネットワーク効果で利用者の力を借りて自己増幅している。
「いかなる形態の情報をも無制限に生産し受信できるという能力と、グローバルな電話ネットワークとの結合により、労働および余暇の既成形態は根本的に変化するかもしれない」
シリコンバレーの大企業の従業員の働き方は明らかに日本とは違った。Facebookのキャンパスで見た従業員たちは労働者には見えず、私からはまるで遊んでいるようだった。
「新しい産業が誕生し、現在の株式市場のお得意先は一掃されてしまうだろう」
現在、西海岸のビッグ5が株式市場を席巻している。
「この重大事にあたり、合衆国西海岸出身の作家、ハッカー、資本家、アーティストたちはゆるやかも連合し、来たるべき情報化時代のための混成的正説を定義することに成功した。それがすなわち、カリフォルニアン・イデオロギーである。この新たな教義はサンフランシスコの文化的ボヘミアニズムとシリコン・ヴァレーのハイテク産業との奇怪な混合から発生した」
SVICの話から、この西海岸の混成的な文化は決して弱まっていないようだ。
(出典:INAX出版『10+1』No.13「メディア都市の地政学」収録の篠儀直子訳)