普遍性を担保するための多様性--AIに読ませるデータが「虹色」である必要 - (page 3)

日塔史

2017-08-23 07:00

 この論文が発表された1995年はMicrosoftの「Windows95」が発売されたことからよく『IT元年』といわれる。つまりこの20年もの間、シリコンバレーはこの教義を守り続け、ついに今年になって、その予言が株式市場でも完全に実現された。

 その他にも、この論文は現在ホットなキーワードにあふれている。例えば「すべての米国人は最低五十エーカーの土地を経済的自立の保証として与えられるべき」とThomas Jeffersonが主張したエピソードを取り上げているが、近年シリコンバレーで「ベーシック・インカム」が真剣に議論されていることと符合する(Mark Zuckerbergもこの5月のハーバード大学の卒業生へのスピーチで支持を表明)。

 さらに論文中には「サイバースペース」「デジタルマネー」「ヴァーチュアル・リアリティ」「怒れる白人男性」「社会的な二極分化」「ポスト人類」「人工知能」など、筆者にとっては今頃になってようやくピンとくるような論点が満載だ。

 ただし、さすがに20年もの間でカリフォルニアン・イデオロギー発表時の考察とは異なる点も見られるようになった。前述の「新たな教義はサンフランシスコの文化的ボヘミアニズムとシリコン・ヴァレーのハイテク産業との奇怪な混合」というところの「奇怪な」には否定的なニュアンスが込められている。

 事実、この論文はこのイデオロギーを肯定するものではなく批判的立場に立つもので、「ヨーロッパのデジタル職人はこのような矛盾に満ちたイデオロギーではなく、もっと優れた自己アイデンティティを創りだすべき」という趣旨のものだ。

 社会は二極化し、その上位にある「仮想階級」と呼ぶハイテクエリートは、もっぱら白人男性として描かれていて、彼らの富はテクノロジが生み出す人種差別的な新しい(比喩的な)「奴隷制度」によって支えられている、としている。

 確かに現在、テクノロジが新たな搾取構造を創りだしている、という点に関しては思い当たる節がないではない。例えば素朴な疑問として、無料で個人が提供したデータを元に、提供者が想定しない利用方法を駆使して巨額の富が生まれたとして、それが経済的にその個人に還元されないのはなぜだろうか? 

 しかしながら、人種的な偏りに関しては現在の印象的・統計的事実とは異なる部分も多い。例えば前述のSVICによると、人種構成は「白人35%、アジア系32%、ヒスパニック系26%、アフリカ系2%、その他4%」となっており、アフリカ系が想像以上に少ないもののかなり多様であることが分かる。

 外国出身者は37.4%(約4割)もいて、その構成は「メキシコ20%、中国15%、フィリピン12%、ベトナム11%、インド11%、ヨーロッパ9%」と、地理的に近いメキシコを除けばアジア系が非常に多い。

 なお実際にスタートアップを訪れても、インド系と中国系の存在感は圧倒的で、ハイテク系大企業ではインド人最高経営責任者(CEO)は珍しくない。ビッグ5のCEOではGoogleはSundar Pichai(2015年10月~)、MicrosoftはSatya Nadella(2014年2月~)がインド系だ(その他にもシリコンバレー企業ではSanDisk、Adobeなどがインド系CEOである)。

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