展望2020年のIT企業

垂直統合型IoTビジネスを展開する北海道のITベンチャー

田中克己

2017-07-26 07:30

 IoTデバイスからアプリ開発までの垂直統合型IoTビジネスを展開するITベンチャーが現れた。環境や防災など社会問題の解決にIoTを活かす北海道に本社を置くエコモットだ。2017年6月21日に札幌証券取引所アンビシャス市場に上場し、AI(人工知能)を組み込み、予測精度のより高い仕組み作りに挑む。顧客開拓や人材確保にも力を入れる。

モバイルの可能性に賭けたエコモット

 エコモットの入澤拓也代表取締役は大学卒業後、携帯電話の着信メロを配信する会社に入社し、モバイルを使ったシステム開発などを担当した。そこで、モバイルの可能性を強く感じた入澤氏は約5年で退社し、2007年2月にエコモットを設立。「イノベーションをおこすリーディングカンパニーになる」と決意した入澤氏は、社会の課題解決にIoTを活かすことに取り組む。来店予測など企業向けビジネスではない。

 創業を後押しする出来事があった。北海道のアパート経営者が雪を熱で溶かすロードヒーティングを導入したものの、非効率な運用と燃料費の高さに頭を痛めていた。そこで、電源のオンオフを含めた遠隔操作によって、給油などの運転適正化を図れると助言したところ、その経営者から「作ってくれないか」と依頼された。それが創業事業になった融雪システム遠隔監視ソリューション「ゆりもっと」。発売したのは、設立から8カ月後の2007年10月になる。

 融雪システムの次ぎに開発したのが、環境センサやカメラなどからのデータで建設現場を見える化する建設情報化施工支援ソリューション「現場ロイド」。通信モジュールを内蔵した様々なIoTデバイスで、騒音や振動、風向、風速、水位、温度などのデータを収集、分析するもの。融雪システムの仕組みを建設現場に応用したもので、たとえば、河川の数位を検知、予測し、担当者に通知したり、水門の開閉を自動操作したりする。まさにIoTである。建設機械のレンタル会社を販売代理店にするとともに、社員70人弱の半数近くを営業支援(事務職含む)として、札幌や青森、仙台、東京、新潟、大阪、佐賀の拠点に配置する。

 こうした建設現場などの実績を集大成し、「この現場には、このセンサとこのデバイスを使いましょう」と自治体などに提案し、コンサルティングやSIにつなげていく。とくに公共事業は、大手企業との競合になるので、低価格な仕組みも編み出す。たとえば、大手が高性能なセンサーを1個取り付けるのなら、エコモットは簡易センサーを10個取り付けるようなイメージになる。

 加えて、垂直統合型IoTビジネスを展開する。IoTデバイスからアプリ開発まで一気通貫で揃えるということ。ワンストップで提供するため、IoTプラットフォームも自社開発した。「コストが安くなるし、セキュリティの確保が容易になる」(入澤氏)。異なるメーカーの製品を組み合わせるよりも、データの一元管理もしやすいという。

自然災害の予兆など社会課題を解決するIoTインテグレーションを目指す

 エコモットは現在、融雪システム遠隔監視や建設情報化施工支援のほか、リアルタイムに車両の運行状況を把握する車両運用管理ソリューションを用意する。これらソリューションの売れ行きは好調のようだ。2017年3月期の売上高は前期比85%増の約13億7100万円、経常利益は同8倍の約9300万円に達する。

 ソリューションの機能拡充も進める。1つは、AIの機能を組み込むこと。例えば、センサで収集したデータの分析、予測の精度を高めるため、気象情報を展開するライフビジネスウェザーや北海道大学発のベンチャーであるテクノフェイスなどAIインテグレータとの協業によって実現する。融雪システムに画像解析を組み合わせて、積雪の監視を自動化したり、積もったらボイラーを稼働させたりする。人が24時間365日、監視するより効率的になる。

 気象情報も組み合わせる。どの場所に、どの程度の雪が降るか予測し、運転の効率化はさらに高めるためだ。建設現場では、風雨の変化などにAIを応用する。工事現場の観測データから10分後の風速や雨量を予測し、たとえばクレーン車の作業を継続するのか中止するのか判断する。車両運行管理を事故防止にも使える。運転手に生体センサーを取り付けて、急ブレーキや急ハンドル、居眠りなどのデータを収集し、安全運転の注意を喚起したりする。工事や配達などの営業車を持つ地場企業に、「IoTとAIで、事故をなくそう」といった提案を考えている。

 エコモットは、そんな社会的な課題をIoTやAIで解決するIoTインテグレーション会社を目指すとし、洪水や豪雨、増水など自然災害を予兆するソリューションも開発するなど環境から防災などへとIoT活用を広げている。社会の安心、安全をIoTで実現する市場を創り出すということだろう。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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