産学連携の新世紀

脳型AIで東大、阪大と連携--NECが考えるオープンイノベーション - (page 2)

飯田樹

2017-10-26 07:00

AIとスモールデータで大型連携

--大学とのオープンイノベーションの方針は。

 井原氏:大学やスタートアップとのオープンイノベーションは、大型の共同研究とスタートアップ投資によって強化していく方針です。例えば大阪大学とは2016年4月に「NEC ブレインインスパイヤードコンピューティング 協働研究所」を設立しました。脳型情報処理アーキテクチャの研究が目的です。実現までは時間がかかりますが、そのときには世の中もNECのビジネスも大きく変わるため、今の段階から組んでいます。

 仙田氏:今までも、大学との共同研究はありましたが、数は多くても大きな事業成果として出ているものは少ない状況でした。そこで、組織的に組むことで、外部の力を補足的なものとせず、今までできなかったことを実現していこうとしています。

--具体的な取り組みをご紹介いただけますか。


日本電気 研究企画本部 シニアマネージャー 仙田修司氏

 仙田氏:大型連携のテーマは大きく分けて2つあります。一つは「脳型のAIです。コンピューティングにおいて、量子コンピュータと脳型コンピュータという2つの流れがある中で、我々は脳型に力をいれようということで、大阪大学や東京大学と研究を進めています。大阪大学とは2016年4月、東京大学とは2016年7月から連携を開始しました。

 もう一つは、スモールデータで学習するAIです。世の中ではビッグデータが話題ですが、医学上のまれな症例や災害など、事例の数が少ないものも多くあります。そこで、産業技術総合研究所(産総研)と理化学研究所(理研)と一緒に研究を進めています。産総研とは「NEC-産総研人工知能連携研究室」を2016年6月に設立し、データ蓄積が少ない場合でもシミュレーションとAIの融合で人の意思決定を支援できる技術を研究しています。

 理研とは「理研AIP-NEC連携センター」として、2017年4月より、頻度の低い事象を学習するAI基盤技術の確率や複数AI間での自動交渉の理論的解析に取り組んでいます。

--東京大学とは組織的な連携をしていますね

 仙田氏:東京大学とは、今までも個別の先生方との共同研究はしていましたが、2016年の7月に「NEC・東京大学フューチャーAI研究・教育戦略パートナーシップ協定」を結びました。この協定には3つの柱があります。1つは大型共同研究の推進です。特に大きなものとして「ブレインモルフィックAI」の研究があります。脳を模倣した超高効率のAI処理プラットフォームの実現を目指すもので、東京大学生産技術研究所の合原一幸教授を中心に、グローバルトップの研究者を集めて取り組んでおり、大型のリソースを両組織で投資しています。

 2つ目は、倫理・法制度の研究です。AIを活用したソリューションが広まった時に、AIが社会のルールや人間の感覚に受け入れられるのかという課題があります。そのため、理系だけではなくて東京大学の文系の方々の力を借りて、倫理法制度の研究をしています。

 3つ目は、人材育成です。東京大学様と奨学金を設立しました。


「NEC・東京大学 フューチャーAI研究・教育 戦略パートナーシップ協定」での3つの柱

--2016年7月の発表から1年以上経ちましたが、進行状況はどうでしょうか。

 仙田氏:3つとも、それぞれ進んでいます。この協定は3年間で結んでいるため、共同研究に関しては2年後のアウトプットに向けて進めています。2つ目の倫理・法制度の研究については、今年度に入ってから共同研究を始めたところです。倫理・法制度全般を対象とすると課題がぼやけてしまうため、まずはNEC中央研究所の幹部と先生方とで、ワークショップを行って課題設定を行ってきました。成果の考え方や進め方が今までの共同研究とは違うため、お互いの意見をぶつけあいながら、ワークショップを進めてきました。

 3つ目の人材育成では、当初から公表していた「NEC・東京大学 フューチャーAIスカラーシップ」を予定通り実施しています。返済義務のない月20万円の奨学金です。博士課程の方に3年間支給するという形で、毎年2人を対象としています。目的付き寄付金のため、AIの研究に関わる方々を対象にはしていますが、将来的に弊社に入るという条件もありませんし、あくまでも奨学金を使って研究ができるようにしたことが重要だと思っています。

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