共同研究を事業につなげるためには
--通常の共同研究との違いは、現場の実感としてありますか。
仙田氏:大きいです。大阪大学や産総研、理研との連携は特定の技術を研究するために大きな投資が必要だという理由で行っており、技術要素が強いものでした。
一方で、東京大学との場合は連携の範囲が広く、共同研究自体も大型化していますが、倫理・法制度や人材育成というこのパートナーシップ協定がなければ扱わなかったテーマもあるため、その点では特異な印象です。トップ同士で合意した結果に基づいて実施しているので、やはり大きな動きだと感じます。例えば人間の代わりに判断を行う脳型のチップを作ったとして、そのような新しい技術が世の中に受け入れられるためには、研究成果を製品にする一歩先をみて、倫理や法制度などを検討していくことは重要です。
--共同研究の事例は多くても、事業につなげるのが難しいという話も聞きます。
仙田氏:大型の共同研究になるかは方法の問題で、事業になるかはマインドの問題だと考えています。大学との共同研究をするときに、双方が事業化を考えているかということです。最近では、大学発ベンチャーや文部科学省の動きの影響で事業への意識が高い先生もいらっしゃいます。そういう方との連携は、事業化のためのパートナーとして、最初から大型のものになる傾向があると感じます。
井原氏:事業として見た時に、NEC側が企業の研究所としてビジネス化のシナリオを先に持っていて、その一環として大学や研究機関と組んでいく必要があると考えています。そのうえで、どう事業につなげるかはNECのなかの事業部門と戦略を摺り合わせて進めていきます。
最初にお話した、社会価値創造企業になるための将来技術ビジョンに関しては、研究所では仮説を含めて顧客価値にどうつながるかを考えており、「技術」「顧客価値」「事業」をストーリーとして組み立てて、新規事業のテーマを探っています。事業部門側から課題が提示されて、それを研究所の技術力でブレイクスルーできないかを試したり、ある程度事業ビジョンが見えているところをベースに、技術として発展できるところを事業部門とすり合わせることもあります。反対に、技術をベースに新しいビジネスができないかを事業部門側に提案することもあると考えています。
--今後のオープンイノベーションへの展望は。
井原氏:今は試行錯誤をしながら、積極的にオープンイノベーションに取り組み、外の風を感じながら加速・拡大させていく時期だと考えています。成功事例が出れば次のステップに進めるので、それを目指している状態です。シリコンバレーの動きやアメリカの企業を見ていると、自前主義で全てを解決することは少ない世の中になっており、日本の企業もそうなるのではないでしょうか。