ネットワークセキュリティの要諦

個人情報保護新時代におけるデータ保護オフィサーとは?

松岡 里奈(パロアルトネットワークス)

2017-11-14 07:00

 2018年5月25日、EUにおいて一般データ保護規則(General Data Protection Regulation : GDPR)が適用開始となります。情報セキュリティとはリスクの種類は異なるものの、個人情報保護法同様に、ポリシーの適用や情報流出時の対応など、少なからずグローバル展開する日本企業へ影響を与えるでしょう。今回は、GDPRへの対応策として企業が行わなければいけない、データ保護オフィサー(DPO)の設置に焦点をあてます。

DPOとは

 GDPRは、1995年のEUデータ保護指令を前身とするもので、ビジネスのグローバル化やクラウドサービスの利用拡大などのITの進化により個人情報にかかわるリスクが増大する中で、欧州経済領域(EEA)域内に所在する個人情報を原則として第三国に移転することを禁止し、基本的人権である個人情報の保護を図るものです。

 GDPRを遵守し、データガバナンスの実装をしていく上で重要な役割を担っているのが、データ保護オフィサー(Data Protection Officer : DPO)です。データ保護の責任者というと日本ではあまり馴染みのないポジションですが、欧州では古くから条例などで規定され、最高セキュリティ責任者ともその役割は異なります。今回はGDPRの条文(一般財団法人日本情報経済社会推進協会の「仮日本語訳」を引用)および2016年12月に第29条作業部会(EU の個人データの取扱いに関する助言機関)により公表されたガイドラインにもとづき、DPOについて解説します。

DPOの選任義務

 GDPRは37条1項及び4項において、どのような場合にデータ保護オフィサーを選任する必要があるかを規定しています。


 上記のうち、文言の1から4については、第29条作業部会はガイドラインにおいてその見解を示しています。

 1.「公的機関または団体」とは、加盟国の公共サービス、輸送インフラ、公共放送サービスの提供者等がこれにあたります。

 2.「中心的業務」とは、管理者又は処理者の目的を達成するための主要な業務のことをいいます。例えば、従業員への給与の支払やITサポート等は必要不可欠ではすが、付随的な業務であり主要な業務ではないため、これにはあたりません。「中心的業務」にあたる例としては、公共スペースを保護するために雇用されるセキュリティ会社の監視業務、患者の健康データに関する病院の処理業務等が挙げられます。

 3.「大規模」とは、関係するデータ主体の数、データの量や範囲、処理の期間又は永続性、処理活動の地理的範囲等の要素を考慮し判断するとされています。例えば銀行または保険会社が行う顧客データの処理は上記判断要素からしても「大規模」の処理にあたると解される可能性が高いといえます。これに対し個々の医師が患者の個人情報を処理するような場合は「大規模」の処理にあたらないといえます。

 4.「定期的かつ系統的な監視」のうち「定期的」とは、(1)一定期間において継続的にあるいは一定の間隔をおいておこなわれるもの、(2)定期的に繰り返されるもの、(3)常にあるいは定期的に行われるものをいいます。

 「系統的」とは(1)システムに沿っておこなわれるもの、(2)あらかじめ秩序立てておこなわれるもの、(3)データ収集のための一般的なプランの一部として行われるもの、(4)ストラテジの一部として実行されるものを指します。

 また「監視」とは、オンライン環境におけるそれに限定されず、例えば、ビヘイビアターゲティング広告や電子メールによるリターゲティングなどを目的とした、すべての形態のオンライン追跡とプロファイリングが例として挙げられています。

 興味深い例として、スコアリング(例えば、クレジットスコアリング、詐欺防止、または保険料の設定)や位置追跡、フィットネスおよび健康データの追跡、CCTV、ウェアラブルデバイス(スマートメーター、スマートカーなど)による処理も挙げられます。

 ちなみに、(C)で挙げられている「第 9 条で言及された特別な種類のデータ」とは、GDPRにおいて条件を満たさない限り扱いを禁じている個人情報のことです。この配慮が必要な個人情報をGDPRでは、人種もしくは民族的素性、政治的思想、宗教的もしくは哲学的信条、または労働組合員資格に関する個人データ、および遺伝データ、自然人の一意な識別を目的とした生体データ、健康に関するデー タまたは自然人の性生活もしくは性的指向に関するデータと規定しています。

 上記をまとめると、GDPRが適用となる公的組織や、定期的かつ系統的に膨大な個人情報を取り扱う、もしくは、膨大な配慮が求められる個人情報を取り扱かう企業・組織において、DPO設置の義務が発生します。

 また、GDPRによりDPOの選任義務が課されない場合であっても、EU加盟国の国内法により、DPOの選任が求められる場合があるため注意が必要です(37条4項)。例えば、ドイツは個人データの自動的処理に10人以上の従業員が継続的に関与している場合等にはDPOの選任を義務付ける国内法を制定しています。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    従来型のセキュリティでは太刀打ちできない「生成AIによるサイバー攻撃」撃退法のススメ

  2. セキュリティ

    マンガでわかる脆弱性“診断”と脆弱性“管理”の違い--セキュリティ体制の強化に脆弱性管理ツールの活用

  3. セキュリティ

    情報セキュリティに対する懸念を解消、「ISMS認証」取得の検討から審査当日までのTo Doリスト

  4. セキュリティ

    ISMSとPマークは何が違うのか--第三者認証取得を目指す企業が最初に理解すべきこと

  5. セキュリティ

    クラウドセキュリティ管理導入による投資収益率(ROI)は264%--米フォレスター調査レポート

ZDNET Japan クイックポール

所属する組織のデータ活用状況はどの段階にありますか?

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]