バイオメトリクス(生体認証)技術は、世界中の金融サービス業界で注目を集めています。金融サービス業界向けのバイオメトリクス技術市場は、2021年までに300億ドルに達すると予測されており、現在利用可能な最も利便性の高い認証方式であることが幅広く認知され、頻発しているデータ漏えいやハッキングの被害を被ってきた従来のパスワードや秘密の質問などの認証方法を置き換えつつあります。
広く知られている通り、消費者は複数のオンラインサービスを利用する際に、複雑なパスワードをサービスごとに憶えておかなければならない不便さを強く感じていることや、バイオメトリック技術を用いたアプリケーションが初めて登場した際に市場から大いに歓迎されたことを鑑みると、バイオメトリクス技術の今後のさらなる普及が想定されます。

2013年にAppleのiPhone 5Sで指紋リーダーが導入されて以来、バイオメトリクスを用いたセキュリティのオプションを求める消費者の需要は高まり、世界市場における生体認証機能付きスマートフォンの出荷台数は2018年には10億台以上に達すると予測されています。オンライン店舗決済、アプリ内決済、リアル店舗決済、全てにおいてモバイル決済を可能にすることで、多くの消費者が指紋などの生体認証情報を使って、シンプルかつスピーディに、安全な商取引を実施できるようになってきています。
バイオメトリクスが支持される理由として、その利便性だけでなく、内在的な高いセキュリティが挙げられます(後述の通り、その生体情報の利用方法に留意する必要はありますが)。パスワードはソフトウェアを使って簡単に推測することができますが、人の顔や耳、歩行、またはペンの持ち方を偽装もしくは模倣することは比較的困難です。
これは、見知らぬ人やなりすまし等の不正利用者が偽の生体認証情報を使用してスマートフォンのサービスにアクセスすることが非常に困難になることを意味します。
利便性を備えたセキュリティがもたらす顧客満足
バイオメトリクス技術の導入を検討し、既にスマートフォンアプリに導入し始めている銀行の事例はいくつかあります。バイオメトリクスソリューションの到来により、従来の金融機関やフィンテック企業の主要課題の1つである24時間365日間稼働のマルチチャネルンキングのサービス提供において、信頼性と利便性を結びつけるソリューションが実現可能になりました。
複雑かつ、ますます脆弱性が増すユーザー名と静的パスワードの組み合わせを記憶する必要がなくなることで、指紋認証などの瞬時かつ容易に使用できる技術が真のシームレスなユーザー体験を可能にします。
インドでは、他国に先駆けて、政府がバイオメトリクスを利用した支払い方法を採用しました。 2017年の初めに、ナレンドラ・モディ首相は、親指の指紋などのバイオメトリクス・データを使って認証を行う、全国規模の新しいデジタル・ペイメント「Aadhaar Pay」のサービスを開始しました。
インドの小売店は、バイオメトリック・データ用リーダーを設置し、モバイルアプリをダウンロードし、顧客の指をスキャンするだけで決済が完了するサービスを実現させることができます。この取り組みは、人々の情報リテラシの差を埋める有効な手段として評価されています。
一方、銀行はバイオメトリクスにより改善されたユーザー体験を活用して、顧客との関係を強化するサービスを展開することができます。例えば、指紋だけではなく、顧客がセルフィ―(自撮り)によって、自ら認証を行い、モバイル・バンキング取引の決済を行える新しい生体認証技術が登場しています。スマートフォンには通常、カメラが搭載されており、セルフィ―文化は一般的に浸透しているため、顔認識技術の利用は急速に増加しています。
音声認識や虹彩スキャンなど、他の分野もますます普及すると考えられます。例えば、オーバーシー・チャイニーズ銀行(Oversea Chinese Banking Corporation、略称:OCBC)は、シンガポールの銀行として初めて、リテール・バンキング顧客向けに音声バイオメトリクスのサポートを開始しました。