最新技術にも値頃感--サイロ化システムの解決を狙うピュア・ストレージの“老練さ”

渡邉利和

2018-05-28 10:31

 米Pure Storageは5月22~24日の3日間の日程で、プライベートイベント「Pure Accelerate 2018」を米国サンフランシスコで開催した。多数の発表が行われたが、中でも低遅延のネットワークを介したストレージへの高速接続を図るための「NVMe over Fabrics(NVMe-oF)」への注力と、それによってデータ・アーキテクチャを変革していこうという同社の意志が明確に示された点が注目される。

「Pure Accelerate 2018」の基調講演に立つPure Storage 最高経営責任者のCharlie Giancarlo氏
「Pure Accelerate 2018」の基調講演に立つPure Storage 最高経営責任者のCharlie Giancarlo氏

 22日の基調講演では、まず2017年8月に最高経営責任者(CEO)に就任したCharlie Giancarlo氏が自己紹介を兼ねて概要を説明した。同氏は、ITシステムの基本を3本足のスツールに例え、「コンピューティング」「ネットワーク」「ストレージ」の3要素のバランスが重要だと指摘した。

 過去のコンピューティングの世界では、CPUの進化が突出したことでシステム全体の“バランス”が崩れたり、ネットワークが進化してプロセッサに追いついたりといった、コンピュータを構成する各要素の足並みがそろうような、そろわないような進化が続いてきたが、Pure Storageとしてはストレージの進化を実現することで、この“バランス”を取り戻すことが使命と考えているという。

 また同氏は、データこそが企業にとっての最も重要な資産であることを強調すると同時に、データがまだ未活用のまま放置されていることも指摘した。分析や解析といった形で活用されているデータは全データのうちの0.5%ほどに過ぎないという調査結果を紹介、かつてゴールドラッシュを契機に大発展を遂げたサンフランシスコの歴史と重ね合わせて、ゴールドラッシュで集まった採掘者「49ers」を、革命をもたらしたヒーローと位置付け、未活用の大量データから新たな価値を“採掘する”ユーザー企業内のヒーローたちを支援していくことを目指すとした。

 Giancarlo氏に続き、多数の担当者が入れ替わりで登壇しながら新製品や新機能、新サービスなどの紹介を次々と行ったが、中でも最も重要と思われるのが中核製品である「FlashArray//Xファミリー」の刷新だ。

 最上位モデルとして//X90が追加されたほか、全モデルが第2世代(R2)に刷新されている。当初からの「//Xファミリー」の特徴であったNVMeサポートに加えて、新たにNVMe-oFもサポートすることで、その高速性を効果的に活用できるようにすることを目指している。同時に、ユーザー企業がNVMeへの転換を実行しやすくする施策として、「NVMeに対するプレミアムを$0とする」という取り組みを発表した。その意味を簡潔に解説すると、「同じ容量のフラッシュ・ストレージメディアであれば、SATA/SSDでもNVMeモジュールであっても同じ価格とする」ということだ。

 新技術や新規格の製品は、当然ながら旧製品よりも高価で販売されるのが常である。HDDでも、SATA、SCSI、Fibre Channel(FC)といったインターフェースの違いに応じて、同じ容量のドライブであっても価格差が設定されている。この価格差が同社の言う“プレミアム”であり、それをゼロにするということは、単純化すればSSDとNVMeを同じ価格で販売するということになる。ユーザーの視点から見れば、価格が同じである以上、旧規格であり、パフォーマンスも劣るSATA/SSDを選ぶ理由がなくなるため、NVMeへの移行が促進されることになる。

 NVMe/NVMe-oFをサポートするFlashArray//Xファミリーは、同社によれば「従来すみ分けが行われていたSAN/NASとDirect-Attached Storage(DAS)を統合する新世代のストレージ・プラットフォーム」として位置づけられる。

 FlashArray//Xファミリーの刷新を踏まえて同時に発表された新アーキテクチャが、「Data-Centric Architecture(データ・セントリック アーキテクチャ)」だ。データこそが最重要資産であり、ITインフラはデータ活用を主眼に設計すべき――という意図を込めた命名だが、名前だけからはその意図が分かりにくい部分もある。

 かつての業務システムで課題とされていた“サイロ化”は、分断されたストレージシステムが多数併存する状況を作り出してしまい、企業や組織に投資効率の悪化や運用管理負担の増大といったマイナスをもたらした。とはいえ、「サイロ化状態を解消して統合されたリソースプールを作るべき」という提言も、x86サーバの仮想化が普及し始めた2000年頃には既に目指すべき未来の共通認識となっていた。今もなお、サイロ化されたシステムがなくなっていないことから、“統合されたシステム基盤”を作ることがそう簡単でないことが分かる。

 何が統合インフラ構築の障壁となっていたのかは、視点や立場によってさまざまな要素が挙げられるだろう。今回Pure Storageが打ち出したのは、ストレージの性能を向上させることで、コンピューティングやネットワークとバランスを取る――という解決策だ。FlashArray//Xファミリーの強化と、NVMe対応ストレージメディアのプレミアムコストをゼロにするという施策により、ユーザー企業は従来のSSDベースのオールフラッシュストレージからさらに進化したストレージ・プラットフォームを運用できるようになるだろう。

 この新しいプラットフォームのパフォーマンスを前提とすれば、従来はまだ、さまざまな困難があると考えられていた複数システムから共通に利用される統合的なストレージプールの実現が現実的なものとなるというのが、Pure Storageの語るデータ・セントリック アーキテクチャの端的なメリットと考えて良さそうだ。

 Pure Storageは、初期の頃からフラッシュ自体の高速性を極限まで追求するような姿勢は取らず、標準的なSSDを採用することで性能とコストのバランスを取りつつ、インラインのデータ圧縮や重複排除といったソフトウェア技術を組み合わせることで効率向上を実現するなど、早い段階からユーザーメリットを最大化することを意識した洗煉された製品企画を実現してきたという印象がある。同社は自身の取り組みについて、「破壊的なイノベーションを次々ともたらしてきた」という。実際、常に最新モデルを利用可能とする「Ever Green Storage」や、今回発表されたNVMeプレミアムをゼロにするといった取り組みは、従来のストレージベンダーのビジネスモデルからすれば破壊的な取り組みと言えるが、一方でユーザー企業の使いやすさ、導入の容易さといった観点から見るとまさに望まれていた取り組みだとも言える。

 これはITベンチャーにありがちな技術偏重に陥らず、ユーザー目線の取り組みを着々と実行する辺りに、一種の老練さも感じられる。オールフラッシュを武器に参入したベンチャーの多くが既に表舞台から姿を消している中、Pure Storageは着実に成長を遂げており、遂に創業8年で“1Billion dollar(10億ドル)”企業にまで到達したのは、まさに“オールフラッシュ”とは言いつつも、フラッシュ技術に偏重しないバランス感覚の賜物なのだろう。イベントの運営自体は荒削りでいかにも不慣れなベンチャーらしさも感じられたが、そのことが逆に事業戦略の奇妙なまでの洗練度を際立たせたような印象だ。

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