本連載では、ビジネスで利用するITサービスの最新動向について、最前線を走る企業への取材を軸に紹介する。複数回で同じテーマを追いかけて、今後注目すべきテクノロジやサービスを取り上げる予定だ。今回は「ローコード/ノーコードプラットフォーム」をテーマにした第4回で、「Forguncy(フォーガンシー)」を提供するグレープシティに話を聞いた。
ForguncyはExcel方眼紙をもじったローコード/ノーコードプラットフォーム
Excel方眼紙の見栄えをそのままにデメリットを解消
Forguncyは“Excel感覚”のウェブアプリ作成ツールと打ち出している。ローコード/ノーコードプラットフォームはExcel業務からの移行という側面がある。Forguncyと言う名前も、Excel方眼紙から付けられている。同製品を企画段階から担当するのが、グレープシティ Enterprise Solutions事業部第1製品グループプロダクトマネージャーの八巻雄哉氏である。
グレープシティは1980年に創立された老舗企業で、学校法人向けソフトウェアの開発からスタートし、現在では英語教育システムや映像プランニング、開発支援ツールの事業を手掛けている。25年ほど前からは「SPREAD」というExcelライクなグリッドコンポーネントを提供。Excelによく似た画面とその操作性をソフトウェア部品(コンポーネント)として、さまざまな業務アプリに組み込めるのが特徴だ。
「売り上げは今でもコンポーネント事業がメインですが成熟期に入っています。そろそろ次の柱を立てたいということで、新規ビジネスの話になりました。2012年にR&Dチームが立ち上がり、途中で私が参加しました」(八巻氏)
グレープシティのウェブサイト。8カ国で4つの事業を展開するグローバル企業だ
Enterprise Solutions事業部第1製品グループプロダクトマネージャー 八巻雄哉氏
八巻氏は、以前から技術の進歩とともに、取り残されてしまった人たちがいると考えていたという。例えば、「Visual Basic(VB)」から「Visual Basic.NET(VB.NET)」への移行の中で、アプリケーション開発はスタンドアロン型からクライアント/サーバ型へと移り変わった。通信ネットワークや情報セキュリティなどの技術要素が分かっていないとシステムを作れない時代になった。ソフトウェア開発の専門家ではないが、VBを使って社内向けアプリを構築してきたという情報システム担当者は少なくないはず。そうした層が使えるツールが不足していると考えたのだ。
「このような流れの中、高度なことはできないけれど、簡単にアプリを開発できるソフトウェアが必要なのではないかと思い、Forguncy(当時のコードネームはExcel Studio)の企画がスタートしました」(八巻氏)
コードネーム「Excel Studio」は、マイクロソフトの開発環境である「Visual Studio」をもじったもの。その当時からニーズが高かったSPREADのノウハウを生かし、ソフトウェア開発者でなくても本格的なシステムを構築できる製品としてプロジェクトが進んだ。2013年にはプロトタイプが出来上がり、「これは行けそうだ」という感触を得た。
八巻氏は「20年以上にわたる技術や知見の蓄積は弊社の大きな優位性で、Excelライクなローコード/ノンコードツールというのは必然的なものでした」と胸を張った。
SPREADはExcelのようなデータグリッドを簡単に組み込める
Forguncyという製品名は「Excel方眼紙」をもじっている。Excel方眼紙とは、Excelのシートを方眼紙に見立て、セルを自由自在に組み合わせて、紙の帳票のようなレイアウトを実現すること。見た目は良くなるが、もはやデータベースとしては機能せず、入力も管理もしにくくなると非難にさらされている。今でも、大企業や官公庁、大学などで深く根付いており、時々話題になることもある。しかし、意外にも八巻氏は「Excel方眼紙は悪い文化だから絶対にやめよう、とは思っていません」と言う。
そもそも、Excel方眼紙がなくならないのはニーズがある証拠。日本の商習慣として、紙でやっていたものをシステムにする際、ただでさえシステム化への抵抗感があるのだから、せめて見た目は変えたくないという流れだ。今まで紙で使ったレイアウトをできるだけ再現したいが、そんなデジタルツールはない。そこで、Excelなら簡単に罫線を引いてカスタマイズができるということで広まったのだ。
「実は、マイクロソフトもかつて日本からの要望を受けて、Excelの罫線機能を強化したというエピソードがあるくらいです。皆さん、Excelで紙の帳票を再現したかったんです」(八巻氏)
日本人は変化を嫌う傾向がある。システムを抜本的に変えれば大幅に効率化できるはずなのに、必ずと言っていいほど「抵抗勢力」が現れる。ユーザーに受け入れられなければ、システムが無駄になってしまう。無理やり相手を説得しようとしても難しい。そこで八巻氏は、そういった人たちに使ってもらいつつ、Excel方眼紙の負の部分をできるだけなくせないかと考えた。
Excelは見た目とデータが不可分で、「見た目=データ」になっている。そのため、帳票のように作ると、データ構造として意味をなさなくなってしまう。セル結合などを繰り返すと、再利用性さえなくなっていく。そこで、Forguncyは見た目を自由にカスタマイズできるが、データはデータベースで一元管理するようにした。これで、“帳票を再現したい”“データを活用したい”という2つのニーズを満たし、システムの導入や活用に対する抵抗感を緩和できるというわけだ。
Excel方眼紙の例。それぞれの項目に入力された文字はデータベースとして扱えない