製造業におけるAI活用、成功のカギは“人材育成”にあり - (page 2)

長島清香

2018-06-13 07:00

データ解析のプロ集団米Arimo買収の目的とは

 パナソニックは2017年10月、米国のデータ解析会社のArimoを買収している。その理由について井上氏は「画像や音声といったAV系のディープラーニング導入はすんなり進んだが、同様にニーズのあるセンサデータや時系列データなどのデータ解析においては社内に専門家がいなかった。時間も限られていたため、データ解析のプロ集団に仲間に入ってもらい加速することを決めた」と説明した。買収から半年が経過し、BtoBtoC機器の省エネ技術にAIを適用するなど、ようやく実用化の目途が立ってきたという。買収額については「二桁億円くらい」と明かした。

 一方でArimoとDataRobotについては「全く違う位置付け」といい、Arimoは顧客と一緒にじっくり問題を解いていくプロフェッショナルサービス型の集団である一方で、DataRobotはツールと考えているという。「今はデータ分析や機械学習もプロフェッショナル型だが、いつかは自動化の波が来ると思っている。DataRobotはその流れを後押しする、世界を席巻するツールになると思っており、プロフェッショナル型とは一線を画す存在」と述べた。

 DataRobotについて「プロフェッショナルでないと使えないツール」と評した井上氏。「今は使いこなせるコアユーザーが決まってきている状況だが、それはツール側の問題ではなく、担当者の知識不足など使う側に問題がある。ツールを使いこなす理解と、ビジネスの課題を理解する“ドメイン知識”を掛け算で持っている人を育成する必要がある。我々が受託して問題解決をするという構図には限界があるため、やはり現場の方々が自力で回していかなければならないし、そういう回し方をしなければツールの意味がない」と語った。

 社内での具体的な使い方について、詳しくは述べられないとしたものの、工場の故障予測、店舗の需要予測・行動分析、AIを材料開発に用いたマテリアルズインフォマティクスなどがあるという。「材料の世界では勘と経験で見極める専門家が多いので、AIへの信頼が低い。しかしそれでは属人的な状況のままなので、そこを変えたいという思いがある」と述べた。

 また現在、パナソニックは北米を中心に「HomeX」というプロジェクトが動いている。家電や商材を単品で考えるのではなく、家や暮らしなどを定義してソフトウェア主導で進めるものだ。井上氏は「我々はユーザーのタッチポイントを多く持っており、データも数百億件ほど集まってきている。現在はそのクロス分析を行っているので、そういうところにもしハマるのであれば積極的に活用したい」とDataRobotの可能性について語った。

AI活用のボトルネックはコストと品質

 このところ普及がみられるスマートスピーカーについては、「すぐに競合になるというよりは、インターフェースの一つであると考えている。住宅空間そのものの価値を提供しようとしている我々とは狙いが違うと思っている」と冷静な見方を示した。また、音声のみのタッチポイントでは不十分と考えており、「複数のタッチポイントから情報を得ることが重要になるのではないか」とも述べた。

 製造業におけるAI活用のボトルネックに話が及ぶと、「いざ商品になったときにコストの問題がある。きっちり投資対効果(ROI)を考えてバランスが取れるところをうまく見つけられていない。もう一つは品質。我々自身、不特定多数のお客さまに大量のものづくりをしてきたことから、100%にこだわるという文化がある。こういう確率的なものをいかに使いこなすか、カバーするかはもう一つの大きな壁になる」と分析した。

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