「C/4 HANA」を発表してCRMへの本気を見せたSAP、C/4 HANAを支える顧客データ部分を担うのが「SAP Customer Data Cloud」だ。SAPが2017年に買収したGigyaの技術が土台となっており、C/4 HANAの特徴である「合意をベースとした顧客との信頼のある関係」を実現する根本部分を担う。元Gigyaで現在SAPでAPAC担当SAP Customer Data Cloudを率いるTJ Chandler氏に、Customer Data Cloudについて話を聞いた。
--SAP Customer Data Cloudの土台となるGigyaについて教えてください。
Chandler氏イスラエルで約10年前に創業した。当初から、ソーシャルエンゲージのためのアイデンティティ管理プラットフォームを提供している。例えばウェブサイトでユーザーが共有したり、「いいね」をしたり、コメントをつけたり、評価したりというソーシャルのエンゲージは、現在は当たり前だがGigyaが創業した当時は新しいものだった。
顧客がサイトやサービスに登録してログイオンすることで、企業は2つのバリューを得られる。1つ目は顧客体験の改善。帽子よりも靴に興味があることが分かれば、顧客に靴に関する広告を表示できる。顧客が不快に感じる可能性は低いだろう。
2つ目は、顧客についてより深い情報が得られる。市場セグメントのための集合的なものもあれば、個人レベルでもリッチで意味がある情報を得られる。
Gigyaはログインを効率化するだけでなく、アイデンティティデータベースのホスティングにより、各顧客のデータを安全に保存する。データ連携により、顧客がログインするとその情報がマーケティングの「SAP Marketing Cloud」(旧製品名「SAP Hybris Marketing」)などのバックエンドシステムで活用できる。特定の顧客がどの頻度で自社サイトを訪問しているのかなどが分かれば、メールの内容をより絞り込んだり、プロモーションなどマーケティングを改善できる。
登録はGigya時代は”Registration as a Service(RaaS)”としてSaaS形式で提供していた。企業は自分たちのソフトウェアにこれをプラグインして利用できる。「SAP Commerce Cloud」などを利用するコマースサイトでもいいし、DrupalやWordPressなどで作成したコンテンツ管理システムでもいい。ID情報を安全に、高性能かつ拡張性のある形で保存できる。
Gigyaはアイデンティティ(「SAP Customer Identity」)、合意(SAP Customer Consent)、プロフィール(「SAP Customer Profile」)の大きく3技術の土台になっている。
--GDPR(EU一般データ保護規制)が施行に入りました。またFacebookの顧客データの不正流用問題など、ユーザーはソーシャルサービスや個人データの提供に不信感を抱いています。
Chandler氏アジア太平洋地区で我々が7000人の一般消費者を対象に行った調査でも明らかだ。
「企業やブランドとの関係で、大切なものは何か。その情報を提供したいと思うか?」と尋ねたところ、一部は「いいえ、オンラインでは個人情報を提供しない」と回答した。多かったのは、「一部を提供しても良い。ただし、そのブランドが信頼できると思い、自分の情報を何に使っているのかが分かったときのみ」だった。
調査を行なった日本、オーストラリア、シンガポールを含む全ての国のうち、最も個人情報に敏感なのが日本だった。ブランドに対する信頼であっても、情報を正しく使うことへの信頼であっても、あるいは情報共有をしたいと思うかであっても、日本の消費者は一貫して保守的で、「共有しない方を好む」と多くが述べている。つまり、日本の企業や日本で展開するブランドは他国よりもコンシューマーの信頼を得るのは簡単ではないということになる。
Gigyaはこの市場を理解しており、解決策がある。合意に基づいた信頼関係を構築することができる。すぐに使えるソリューションで、バックエンドのデータベースに統合して、いつ・どのような条件に合意したのかを追跡できる。そのユーザーが週に一度のメールならOKなのか、月に一度のSMSが良いのか、連絡は不要なのか。メディアなら、スポーツと旅行だけの情報が欲しくて政府のニュースは不要なのかなども分かる。これらの好みに関する情報や合意は、単に取得するだけでなく、アクティブにモニタリングされ、監査できる状態にある。
顧客がそのブランドを信頼しているのかを確実にすること、自分の情報がある種類の方法で収集され、安全で、合意した方法でのみ使われ、それを閲覧したり、編集したり、削除できるということを確実にすることだ。顧客はこれを期待しており、これらはGDPRでも形式化されている。GigyaはGDPRだけでなく、シンガポールの個人情報保護法(PDPA)、日本の個人情報保護法、中国のサイバーセキュリティ法、オーストラリアの個人情報保護法(APP:Australian Privacy Principals Act)などさまざまな規制に対応している。Gigyaを導入している企業は、何が・いつ起きたのかを明確にでき、監査可能な状態で証明できる。また、顧客は自分が提供した情報をダウンロードすることもできる。
SAP Customer Profileにより一元的に顧客情報を管理・閲覧できる。