Boyden氏は、メディアのスタッフや選手が、このシステムを利用して1870年代から蓄積されている歴代のデータを引き出す方法をデモンストレーションしてくれた。データサイエンスの支援チームは、報道陣の質問に答えを提供する仕事もしているが、コメンテーターのコメントに生かせる情報をシステムから見つけ出して提供する、積極的な役割も果たしている。
またIBMは、WISから詳しい情報を引き出し、観戦中の試合に関する統計を観客に分かりやすい形で提供するアナリティクス技術「SlamTracker」にもデータをフィードしている。SlamTrackerは大会のウェブサイトから利用でき、視覚的な表現で、試合のそれまでの展開や、考えられる結果を見ることができる機能だ。
ウィンブルドン大会のIBMチームが行っているのは、運用だけではない。Boyden氏はわれわれをバンカーの2つ目の部屋に案内した。その部屋ではクラウドのホスティングやサイバーセキュリティなどのインフラのサポートを行う部隊と、人工知能(AI)を含む開発を行う部隊が働いていた。
同氏は、ウィンブルドン大会は「独自の課題に直面している」と述べた。大会サイトのトラフィックは1年のうち50週間は少ないが、大会開催中の2週間は指数関数的にアクセスが増加する。Boyden氏のチームは、IBMのクラウドホスティング機能を使って、その需要の変化に動的に対応している。コンテンツは、レジリエンシー(回復力)を確保し、提供速度を改善するため、サンノゼ、モントリオール、東京、ロンドンの4カ所のサイトから提供されている。
Boyden氏は、IBMのチームはAIを利用したセキュリティ管理システム「QRadar」を使用して、現在の脆弱性レポートと過去の脅威の両方を分析し、プロアクティブに問題を回避していると説明した。同社は2017年のウィンブルドン大会中に、2億件以上の疑わしいセキュリティイベントを検知し、ブロックしたという。
大会のためのソフトウェアの開発は、この安全なクラウドプラットフォーム上で行われている。開発作業は、大会の日常業務を行っているThe All England Lawn Tennis Clubと協力しながら常時進められており、世界中のファンにコンテンツを提供する新たな方法が模索されているとBoyden氏は言う。