「10年以上にわたって、負荷分散装置の多機能化を図ってきた。2年前からはインフラを問わず共通体験ができることに注力し、ライセンスを製品間で移動できるようにした。例えば、ハードウェアの負荷分散装置のライセンスがあれば、ライセンスを追加購入せずに仮想サーバ型の負荷分散装置に移行できる」――米Citrix Systemsは、Windowsのデスクトップ画面やアプリケーションをリモートからシンクライアント経由で操作できるようにするソフトウェア「XenDesktop」「XenApp」を中核とする。2005年には米NetScalerを買収し、負荷分散装置などのネットワークアプライアンスをラインアップに加えた。
NetScalerラインの中核製品が、負荷分散装置(アプリケーションスイッチ)の「NetScaler ADC(アプリケーションデリバリコントローラ)」。背後に置かれた複数のアプリケーションサーバ機群に、クライアントからのリクエストの処理負荷を分散させる負荷分散機能を中核とする。
負荷分散装置は多機能化の歴史--アプリケーションも認識
米Citrix Systems プロダクトマネージメント担当バイスプレジデントのAbhilash Verma氏
NetScaler ADCでは、負荷分散に加えて、TCPコネクション確立時の負荷を省くコネクション集約機能や、データ圧縮/キャッシュによって転送データ量を削減する機能、アプリケーションごとに固有のネットワーク通信を最適化する機能など、アプリケーションを高速に使うための機能群を提供する。
「スイスのアーミーナイフのように1つでさまざまな機能を果たすというコンセプトで発展させてきた」と負荷分散装置の多機能化の歴史を説明するのは、NetScalerがCitrixに買収された当時からネットワーク製品に携わるプロダクトマネージメント担当バイスプレジデントのAbhilash Verma氏。
多機能化では主に、ネットワーク通信における最上位のレイヤ7(アプリケーション通信の中身)の活用に注力してきた。通信しているアプリケーションを認識し、アプリケーションに合わせて経路(転送先)を変えたり、通信内容を最適化(オプティマイズ)したりする。
現在では、Office 365やSalesforce.comといったSaaS型で利用できるクラウド型アプリケーションの数が増えていることに対応して、ネットワーク通信を最適化できるアプリケーションの種類を増やしている。
仮想環境版やコンテナ版を追加
ADCの提供形態も増やしてきた。現在のラインアップは、NetScaler MPX(物理アプライアンス)、同VPX(仮想アプライアンス)、同SDX(複数の仮想アプライアンスを動作させた物理アプライアンス)、同CPX(Dockerコンテナ)――だ。
2008年に、仮想サーバ環境で動作する仮想アプライアンス版のNetScaler VPXをラインアップに加えた。これにより、パブリッククラウド環境やプライベートクラウド環境など、仮想サーバ環境に負荷分散装置を配置しやすくなった。現在ではDockerコンテナ版のNetScaler CPXも追加した。
2012年には、複数の負荷分散装置を単一のハードウェアに集約する需要に合わせ、NetScaler SDXをリリースした。1台の物理アプライアンスにサーバ仮想化ソフトのXenServerを導入し、この上で120台の仮想アプライアンス(NetScaler VPX)を稼働させることができる。
処理負荷の増減にあわせて負荷分散環境も増減
処理負荷の増減などに合わせた動的・自律的な制御にも注力している。NetScaler ADCの外部で稼働する管理ソフト「NetScaler Management and Analytics System」(MAS)を使うと、処理負荷の増減に合わせて負荷分散環境を増強したり軽量化したりできる。
負荷分散装置のスケールアップ(性能増強)やスケールアウト/イン(台数の増減)、負荷分散対象となるアプリケーションサーバ機群のスケールアウト/イン(台数の増減)などを動的に制御できる。
MASを介した制御だけでなく、他社のクラウド運用基盤ソフトやSDN製品(Cisco ACIやVMware NSXなど)からもNetScaler ADCの設定をNetScaler ADCのAPI経由で制御できるように、SDNベンダーとの間で連携をとっている。
物理ADCから仮想ADCにライセンスを持ち込み
「直近の2年では、オンプレミス環境やパブリッククラウド/プライベートクラウド環境などのインフラ基盤を問わずに共通の体験ができることに注力している」とVerma氏は強調する。
具体的には、NetScaler ADCのライセンスにポータビリティ(可搬性)を持たせた。例えば、購入済みのNetScaler MPX(物理アプライアンス)に付随するライセンスを、別途ライセンスを追加購入することなくNetScaler VPX(仮想アプライアンス)に移行できる。
複数台分のプール化したライセンスを購入しておき、ここから自由にライセンスを割り振れる。現在同時に使用中のライセンスの合計が、購入済みのライセンス台数を超えない限り、どのように割り当てても構わない。「ライセンスが無駄にならない」(Verma氏)