日本マイクロソフトは8月6日、都内で2019事業年度の経営方針記者会見を開催した。代表取締役社長の平野拓也氏は、「(社長就任から)丸3年経ち、4年目を迎えて“インテリジェントテクノロジ”の浸透で日本の社会変革に貢献する姿勢は、就任以来変わっていない。今後も継続する」と述べ、7月1日に始まった新事業年度の経営方針を説明した。
日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏
グローバルの2018年事業年度(2018年6月期)売上高は、前年度比14%増の1104億ドル(約12兆3000億円)に達し、そのうちコマーシャルクラウドの売上高は同56%増(約2兆5600億円)だった。クラウドの内訳はMicrosoft Azureが89%増、Office 365が38%増、Dynamics 365が61%増(全て2018事業年度第4四半期比)。平野氏は、同社が「クラウドネイティブなAWS(Amazon Web Services)さんやSalesforceさんの年間成長率よりも上回る。日本における成長率も各数値を超えた」と珍しく他社を引用して、クラウドベンダーとしての好調ぶりをアピールした。
日本マイクロソフト単体の業績などの具体的な数値を示していないが、平野氏が入社した2006事業年度から2016年度までの10年間における“総成長金額分”に対し、2016~2018事業年度の3年間では金額が約2倍に達したという。同氏はその理由として、「(日本におけるビジネスが)急速に成長している。本年度はさらに高い成長率を目指す」としつつ、成長要因として「企業変革の推進」「働き方改革のリーディングカンパニー」「クラウド+インテリジェントクラウドの成長」と分析した。
その背景には、日本マイクロソフトにおけるビジネスモデルの変革があるという。従来はWindowsやOfficeといったライセンスビジネスが中心だったものの、現在はクラウドソリューションのビジネスが主軸となった。顧客接点がIT部門のみならず顧客の事業部門に広がり、コスト削減やビジネスソリューションを含め、顧客とともにビジネスモデルを思案する機会が増加している。「それらを実行するための社内組織体制や、オペレーションモデルを変更している」(平野氏)という。
さらに、働き方改革のリーディングカンパニーという同社の印象が顧客に浸透し、「経営層や政府・官公庁からご相談をいただく機会も増えた」と説明する。その基盤となる「クラウドはもちろん、AI(人工知能)やMR(複合現実)、IoTといったインテリジェントテクノロジの成長と、マイクロソフトが持つエンタープライズの価値」(平野氏)がビジネスの成功に至ったのだろう。
現在の同社は、企業文化として「Growth mindset(成長を目指す思考様式)」が浸透していると平野氏は説明する。「これまでの成功体験にとらわれず、新しいことを学び続けるため、成長マインドセットを持つ人材をリーダーとして招き、マネージャーにもかつてないレベルと頻度でトレーニングを実施している」とし、経営層や現場に新たな視点を持たせている。その一例として、AIコミュニティーなど複数の社内プロジェクトを立ち上げているほか、米国本社との共同作業も、「ビジネスプロセスや案件レベルで意識的に増やし、Office 365に対する日本の顧客需要も取り込んでいる」(平野氏)と、企業文化の変革を示した。
Microsoftは近年、AIやMR、量子コンピューティングといった技術に注力している。2016年9月29日に、5000人規模の「Microsoft AI and Research Group」を発足し、2017年9月には8000人規模まで増強した。同社のAI関連事例には、ビールの香りや味をAIで分析・予測する「Carlsberg(カールスバーグ)」などがあり、枚挙に暇がない。このように広まるAI利用について平野氏は、「AI技術の進化には責任が伴う。5~10年前とは異なるコミットメントが必要」だと語る。
その活動はAWSやDeepMind(Google)、Facebook、IBMとともにAIの倫理性を考えるコミュニティー「Partnership on AI」や、Microsoft President and CLOの Brad Smith氏、同Artificial Intelligence and Research Group EVPの Harry Shum氏の執筆による著作「The Future Computed」と多岐にわたる。さらに、「本年度は各国でAIの活用プランを作成し、中長期的に展開するビジョン『AI on カントリープラン』を持って事業を進める」(平野氏)と、新たなグローバルの方針を提示した。