近畿大学水産研究所は、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)などの技術を活用し、出荷前の稚魚を自動で選別する実験を始めている。日本マイクロソフトと豊田通商の技術協力を得てシステムを開発した。8月21日に発表された。
これまで、稚魚を出荷する前に専門作業員による選別作業で、生育不良のものを取り除くなど基準を満たす魚だけを選り分けていた。目視検査や手作業など、専門作業員の経験と集中力がものをいう環境だった。作業員自身への体力的負担が大きく、自動化が長年の課題となっていた。
手作業での稚魚選別の様子(出典:日本マイクロソフト)
開発中の自動選別システムでは、いけすからポンプで吸い上げた稚魚をベルトコンベアに乗せる際のポンプ制御の自動化に取り組んでいる。吸い上げる水量が多すぎると、コンベアを通過する稚魚が多過ぎてしまい、選別作業が追い付かなくなる。一方、吸い上げる流量が少ないと含まれる稚魚の数が少な過ぎてしまうため、全体の作業効率が落ちてしまう。
そこで、ベルトコンベア上の魚影面積とその隙間の面積をAI技術で画像解析し、一定面積当たりの稚魚数を分析するようにした。さらに選別者の作業量を機械学習させ、作業のための最適値を割り出し、ポンプの流量調節を自動化するソフトウェアを試作した。
現在は実証実験を継続し、データの収集分析を行うととともに、改良した制御システムを2019年3月までに本番環境へ実装することを目指している。
稚魚選別システム概要図(出典:日本マイクロソフト)
豊田通商は、同研究所で行われている具体的な選定プロセスの知識と経験をもとに、自動化システムのハードウェア設計とプロトタイプ構築を行った。
日本マイクロソフトは、目視作業の要件をもとに、IaaS/PaaS「Microsoft Azure」のIoT機能と、AI機能「Cognitive Service」「Machine Learning」を組み合わせて、ポンプの流量調節をリアルタイムで自動化するシステムを設計・開発した。
近畿大学水産研究所ではこれまで、「近大マグロ」をはじめとする多くの魚種の養殖研究を行っている。現在、同大学水産養殖種苗センターでマダイ稚魚を生産し、大学発ベンチャーの「アーマリン近大」を通じて日本の年間生産量の24%に当たる、約1200万尾を全国の養殖業者に販売している。