米国ネバダ州ラスベガスで開催中の「VMworld 2018」。会期2日目の基調講演は「Pioneers of the Possible」をテーマに、ハイブリッドクラウドやクラウドネイティブ、デジタルワークスペースソリューションなどを活用したデジタル変革によって、ビジネスを成功に導いた企業の事例などが紹介された。さらに、特別ゲストとして、2014年にノーベル平和賞を受賞し、現在は英オックスフォード大学の学生でもある人権運動家のMalala Yousafzai(マララ・ユスフザイ)さんが登場。教育をはじめとする女性が直面している課題などについて触れながら、「テクノロジを社会の発展や貢献のために使ってほしい」などと呼び掛けた。
VMware Customer Operations担当最高執行責任者のSanjay Poonen氏
講演は、入場時に金属探知機を用いた厳重なセキュリティチェックが実施される中で行われた。初日の基調講演にはなかったバンド演奏が来場者を迎えるという演出で、入場口とは裏腹に、あえて和んだ雰囲気を持たせていたのが印象的だ。そのバンドのキーボードを演奏していたのが、2日目の基調講演でホスト役を務めたVMware Customer Operations担当最高執行責任者(COO)のSanjay Poonen氏。演奏を終えて大きな拍手で迎えられながらそのまま登壇したPoonen氏は、前日の基調講演で、VMwareの最高経営責任者(CEO)であるPat Gelsinger氏が「私のコミットメント」として、左腕に「VMware」のタトゥーを入れたことにならいながら、Poonen氏も右腕に同様のタトゥーを入れたことを披露。さらに、右腕にはVMwareの創立20周年を記念したタトゥーを入れたことを披露して、会場からはさらに大きな拍手が起こった。
Poonen氏は、これまでの20年を振り返りながら、「VMwareは2000年にサーバの仮想化からスタートし、2009年にはSoftware-Defined Storage(SDS)、2012年にはSoftware-defined Networking(SDN)、2014年にはSoftware-defined Digital Workspaceを提供してきた。そして、2016年からはマルチクラウドに取り組み、今回のVMworldでもマルチクラウド、ハイブリッドクラウド、Virtual Cloud Networkingの話をしてきた」とコメント。同社がこの20年間で大きな成長を遂げ、2017年度は約80億ドルの売上規模になり、顧客の経済価値が10倍に増加していること、また、vSphereによってコストを84%削減したり、vSANでCAPEXを58%削減したり、NSXで50%の削減を達成できるといった成果を上げた。そして、「VMwareのHybrid Cloudを活用することで、伝統的なオンプレミス環境に比べて40%の削減が可能になっている」などとした。
最初の顧客討論では、輸送警備の米BRINKSの最高情報責任者(CIO)であるRohan Pal氏、放送の英SkyでLead Solutions Architectを務めるDavid Matthews氏、ジャマイカの金融機関National Commercial BankのCIOのRamon Lewis氏が登壇した。
カスタマーパネル(顧客討論)の様子
BRINKSのPal氏は、「BRINKSはセキュアロジスティクスとセキュアマネジメントの会社であり、現金や貴金属などを守ることがビジネスであるが、デジタルの世界でもサービスを提供できるようにした。VMwareの製品を活用することで、ハイブリッドクラウドデータセンターを確立し、ビジネスのトランスフォーメーションを実現した」と説明。SkyのMatthews氏は、「従来型のネットワークは遅くて、使いにくいことが課題であり、それが原因の一つとなり、作業に遅れが生じていた。NSXを活用することで、数日かかっていた作業が数秒で行えるようになった」と発言している。
National Commercial BankのLewis氏は、「カリブで最初のデジタルバンクを目指した。まずは、銀行と顧客の接点に、Amazonのような顧客体験を実現するために、常時オンの世界を作り、PKSを活用し、アジャイルアプリを導入した。PKSを選択したのは、柔軟性と自動化に優れていることが理由であった」などと述べた。
ここではVMwareのPoonen氏が、「VMwareはKubernetesに多く投資し、KubernetesをVMwareの多くの製品で活用できる。『コンテナが脅威ではないか』と言われるが、そんなことはない。風向きを変えることができ、パブリッククラウドのような環境で利用できるようになる」と発言した。
2度目の顧客討論はDigital Workspace関連の成功事例として、DXC TechnologyのDigital Workplace and Mobility担当SVP兼GMのMaria Pardee氏と、Adobe SystemsのDevice Management and Engineering担当IT LeadのJohn Mockett氏の2人が登壇。
DXC TechnologyのPardee氏は、「リアルタイムコミュニケーションが重視される中で、今後のコミュニケーションは、電子メールから離れ、SlackやTeamsとったツールが利用されることになるだろう。また、働き方が変化し、午前と午後では、別の会社で働くということも起こる。それに合わせたインフラを構築する必要もあり、セキュリティやコンプライアンスも強化しなくてはならない」とした。
また、AdobeのMockett氏は、「社員のエクスペリエンスにフォーカスし、社員が創造性の高い製品を使えるようにすることが大切。社員には選択肢を与え、現在6万台以上の端末のうちAppleとMicrosoftは50対50という比率だ。そうした環境でもWorkspace ONEによって管理を簡素化している」と紹介した。
最後に特別ゲストで登場したMalala Yousafzaiさんは、今回のVMworld 2018が初めて参加するテクノロジイベントだった。「三文字略語が多い」と閉口するYousafzaiさんに対しPoonen氏は、「分らない略語が出てきたら『vMotionは最高だ』と言えばいい」などと語り掛けるなど、会場を沸かした。
テクノロジについて語るMalala Yousafzaiさん(右)
幼少期や両親の話などに触れながら、「私の人生がこんな風になるとは思っていなかった。Tālibānは女性に対して、まず音楽を禁止し、市場に行くことを禁止し、そして学校に行くことを禁止した。教育によって、女性の地位が高まることを恐れ、女性の自由や自立を奪おうとした。2012年12月の銃撃事件は、英国の病院で目が覚めるまで何が起きたのか分からなかった。ただ、数千通もの応援の手紙を全世界からいただき勇気づけられた。彼ら(Tālibān)は私を黙らせたかったのに、逆に多くの人が立ち上がり、大きな声につながった」と話した。
また、Yousafzaiさんを銃撃した少年について、「彼は上からの指示で動き、その時の彼の頭の中では『いいことをしている』と理解していた。彼には、しっかりとした教育を受けて、イスラムの本当の真実である、許し、平和、やさしさを学んでほしい。ヘイトはエネルギーの無駄である。私はいいことにエネルギーを使いたい。私にとって女子に教育を受けさせることが重要であり、そこにエネルギーを使いたい。1億3000万人の女の子が、何らかの制約を受けて学校に行けない状況にある。これを解決することは、彼女たちを助けることだけでなく、社会に貢献することにつながり、貧困をなくし、健康を取り戻し、極端な思考をなくすことにつながる。教育が平等の基礎になる」とした。
会場には、ラスベガスの地元高校から約100人の高校生も参加した。学生からの公開質問に対してYousafzaiさんは、「大切なのは自分たちの言葉の力を信じること。今はテクノロジを使って、多くのものにアクセスできる。テクノロジを社会の発展や貢献のために使ってほしい。また、変化をもたらすのに大人になるのを待つ必要はない。社会の批判やステレオタイプなイメージに負けずに、大きな変化に向けて声を上げてほしい」などと語った。
さらに、「テクノロジを使って女性が情報にアクセスできることや、必要なときに必要な人に連絡が取れるようにするための支援が必要。教育をしなければ格差が生まれ、次世代のテクノロジを使うことができない。教育を通じて、新たな世代が新たなツールを利用できるための準備をしなくてはならない。そのテクノロジを人類の発展のために使ってもらいたい」とした。
なお、基調講演の中ではDell Technologiesがラスベガスの高校にコンピュータを寄贈し、学生がテクノロジにアクセスできる環境を実現することが発表された。
(取材協力:ヴイエムウェア)