Salesforce.comは、2018年3月にMuleSoftの買収を発表した。買収金額の面で過去最高の取引(65億ドル)となったが潜在性も大きい。システム接続というMuleSoftの機能は、CRM(顧客関係管理)などフロントエンドのSalesforceの立ち位置を変えるかもしれないからだ。9月末、米国サンフランシスコでSalesforceが開催した「Dreamforce 2018」で、MuleSoftの最高製品責任者を務めるMark Dao氏に話を聞いた。
--MuleSoftについて教えてほしい。

MuleSoft 最高製品責任者のMark Dao氏
アプリケーション、データ、デバイスを接続するためにAPIの作成、接続、実装、管理を包括的に行う「MuleSoft Anypoint Platform」を提供している。開発者、ビジネスユーザーはAPIを利用したシステム統合を容易に行える。世界で1400社がわれわれの製品を利用している。
システムとシステムをつなぐ重要性が高まっているが、これまでのように一つひとつの接続に対してコードを書いていたのでは時間がかかる。これが足かせとなってプロジェクトが進まないことも多い。MuleSoftのAnypoint Platformはこの問題を解決できる。
--なぜ、いまシステム接続が重要な課題なのか?
10~20年前、企業はSAP、Oracleなどのシステムを実装し、カスタマイズすることで、効率を得ようとしていた。クラウドの時代になり、簡単にソリューション、アプリケーションを構築できるようになった。企業は特定の問題やタスクに特化したソリューションを次々と構築しており、“超特化型”の時代と言える。超特化したサービスを多数利用するコンポジット型が進んでいる。ここでは、それぞれを活用しながらも組み合わせる必要がある。われわれは、これを接続のためのプラットフォームを土台とする、“アプリケーションネットワーク”というアプローチで解決する。
典型的な電子商取引のトランザクションが完了するには、35のシステムを通過する必要がある。さらには、IoT(モノのインターネット)、ビックデータ、AI(人工知能)、機械学習、AR/VR(拡張現実/仮想現実)、サイバーセキュリティなど、サービスを組み合わせる必要は高まる一方だ。だが、IT予算が増えることはない。Anypoint Platformは、ITと開発の両チームがビジネス側の要求や変化に迅速に対応するのを支援する。
--API接続に対する日本企業の関心は?
リソースが限られている中で、開発者コミュニティーの育成を優先させてきたため、日本市場への進出は遅れた。だが、統合の問題は世界レベルであり、日本でも既に多数の顧客がMuleSoftを利用している。多くは多国籍企業だ。
(Salesforce.comによる)買収完了を受けて、日本のセールスフォース・ジャパンチームとの協業も始めた。まずは日本語でのトレーニング、ドキュメンテーションの作成を進める。
--企業がMuleSoftを使い始めるきっかけに、何かトレンドはありますか?
特定のパターンが突出して多いということはないが、レガシー(システム)のモダン化、全くの新規プロジェクトで使い始める企業が多い。
メインフレームとの接続、オンプレミスからのクラウド化に当たって、ハイブリッド環境の構築に利用する顧客があれば、APIプログラムを構築してプラットフォーム企業になろうとする顧客もある。後者はAPIプログラムを提供し、自分たちが提供するAPIを中心に、開発者コミュニティーを作成しようとしている。
メインフレームを使っている顧客は、割高なメンテナンスが生じている。MuleSoftを使って、少しずつメインフレームからの脱却を進めることができる。全てを「リップ&リプレースする(完全に置き換える)」というのではなく、一つひとつプロジェクトを進めながらAPIプログラム、アプリケーションネットワークを構築できる。プロジェクトを進めるにつれて、再利用が進み、作業が高速になる。メリットも大きくなる。
--システムをつなぐ技術という中立的な立場だが、なぜSalesforceと一緒になったのか?
われわれは売上高10億ドルに向けて成長を続けており、2018年初めの第1四半期決算発表で、それに向けた計画を発表した。この計画は現在も変わっていない。
Salesforce.comとは、同社が4年前にMuleSoftの投資ラウンドに参加して以来の関係で、その後、定期的に2社の幹部はミーティングをしていた。Salesforceはデジタルトランスフォーメーションで必要になるエクスペリエンスの機能を提供するプラットフォームで、われわれはデータのプラットフォーム。2つの合体は自然だと判断した。MuleSoftの既存顧客への影響はないと考えている。
市場全体を見たとき、年間6900億ドルが統合のためのソフトウェア、サービス、社内の作業に費やされている。これは大きな規模であり、顧客側の課題とニーズの大きさを示している。この市場をわれわれは狙っていく。Salesforceを活用する顧客、そして、それ以外の企業に提供できる。Marc(Salesforceの共同創業者兼共同最高経営責任者のMarc Benioff氏)、Keith(同、共同最高経営責任者のKeith Block氏)、Parker(同、最高技術責任者のParker Harris氏)、Bret(同、最高製品責任者のBret Taylor氏)などの幹部は、MuleSoftが今後も中立を維持するという戦略に同意している。Salesforceは、MuleSoftの全ての顧客の成功を最重視している。
買収のシナジーとして、Salesforceにとっては顧客が外部のデータと簡単に接続できるようになる。顧客の情報を一元化できる「Customer 360」は1つの例だ。Salesforces社内でのAPIプログラム構築も支援している。既に8種のSalesforce APIがあり、この中には全てのSalesforceクラウドにアクセスできるSalesforce Core APIもある。
--Anypoint Platformをどう強化していくのか?
2018年春のリリースでは、「Anypoint Security」というアドオン機能を加えた。2018年秋のリリースでは、アプリケーションネットワークをソーシャルグラフのように表示することで、接続とAPIのメタデータの関係を分析できるアプリケーションネットワークグラフを提供する。どのように接続しているのかを視覚化でき、トランザクションの流れを見たり、ボトルネックがどこにあったりするのかも分る。インパクトの分析も可能になり、特定のシステムに変更が必要な場合に、その変更により、どのシステムが影響を受けるのかが分かる。
今後、アプリケーションネットワークグラフ機能をさらに拡張し、セキュリティではインテリジェンスを加えていく。