国内でも高まるeスポーツ熱気
今でこそ日本でも注目されるeスポーツですが、もともと市場規模が小さかったことから、日本はeスポーツ発展途上国と言われてきました。しかし、2018年に入り、状況が変わりました。
まず一般社団法人「日本eスポーツ連合」が設立されました。その連合から第18回アジア大会(※1)の公開競技・サッカーゲーム(全部で6作品)において、日本代表として杉村直紀選手と相原翼選手を送り出し、見事優勝(決勝戦は日本対イラン)して、金メダルを獲得したのです。また9月20~23日に、千葉・幕張メッセで東京ゲームショウ2018(TGS2018)が開催され、出展社数は668企業・団体、総来場者数は29万8690人といずれも歴代最多(※2)を記録しました。TGS2018では、競技タイトル8作品のeスポーツ競技大会(過去最多)が実施されています。
マスコミのeスポーツ関連番組や報道の量も増えています。この勢いが持続することで、今後は日本でもeスポーツビジネスの拡大が、大いに期待されます。
eスポーツビジネスの正体とは
ここからは従来のゲームとeスポーツの違いを説明し、eスポーツの正体を明らかにしていこうと思います。実は、ゲーマーの視点ではeスポーツと呼ぼうが、ゲームはゲームであり、なんら変わりません。一方でビジネスとして取り組もうとすると、「eスポーツはどこでもうかるのか分からないので難しい」という声をよく聞きます。
人によっては、「昔からあるゲーム大会が本格化、プロ化しているだけで新規性はない」というニュアンスの発言をしています。確かに、アーケードで人気になった有名な格闘ゲームの大会は25周年(※3)でした。そして、eスポーツは「エレクトロニック・スポーツに由来する複数プレイヤーで対戦する電子ゲーム競技」と説明されることも多く、間違ってはいませんが、ビジネスとしてeスポーツをとらえるには、視点を上げて俯瞰(ふかん)してみる必要があります。
※2:コンピュータエンターテインメント協会および日経BP社報道発表(PDF)
※3:http://www.capcom.co.jp/streetfighter/sf25matsuri/index.html
下の図1は、eスポーツビジネスのバリューチェーン構造を示したものです。一番左側に、eスポーツ大会に関わる標準ルール、各種ガイドラインの作成、組織連携機能、次にゲーム開発・流通(いわゆるゲーム産業)、そして、クラブチームおよびリーグの開発・運営体があり、最後にeスポーツ動画配信やeスポーツに関わるチケット、コンテンツ販売のプラットフォームを組み合わせて、エンドユーザーであるオーディエンス(選手、サポーター、観客)に提供するeスポーツ体験の価値連鎖(バリューチェーン)する構造となっています。
従来のゲーム大会とeスポーツの違いというのは、ビジネスを行う上で、コストセンターとプロフィットセンターの違いです。左から2つ目の「ゲーム開発・流通」とは、要はゲーム産業における販売促進やファンサービス(カスタマーエンゲージメント)が、従来のゲーム大会に当たります。ですから、ここは収益モデルではなく、一般的に販促コストです。現在でもeスポーツと銘打っていても、本質的にカスタマーエンゲージメントの延長線上で考えられている大会は、コストセンターの構造から脱せないでしょう。一方、eスポーツビジネスを行っている企業は、各バリューチェーンの価値連鎖を理解し、その価値設計と価値実現することが、eスポーツビジネスの収益化に直結することを理解しています。
バリューチェーンの価値連鎖と収益化の例として挙げられるのは、日本のサッカーリーグとグローバル大手のスポーツコンテンツ配信プラットフォーマーのケースです。サッカーリーグのバリューチェーンによる価値設計がいかに健全なエコシステム維持に貢献したか。それと同じように、ゲーム産業の枠を越えてバリューチェーンによる価値設計を実現しようとするのがeスポーツビジネスなのです。
日本のサッカーリーグとグローバル大手のスポーツコンテンツ配信プラットフォーマーは、多額の放映権契約を締結した結果、サッカーリーグの営業収益が史上最高額を記録しました。もちろん、クラブチームにも放映権収益は分配されますので、全体的に経営が健全化しています。
ちなみに、eスポーツビジネスの詳細な情報については、総務省より「eスポーツ産業に関する調査研究報告書(平成30年3月、PDF)」が発行されています。ぜひ参考にしてください。