本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、NECの新野隆 代表取締役 執行役員社長兼CEOと、日本ヒューレット・パッカードの五十嵐毅 執行役員の発言を紹介する。
「デジタルを最大限活用する入り口に生体認証を広く役立てたい」
(NEC 新野隆 代表取締役 執行役員社長兼CEO)
NECの新野隆 代表取締役 執行役員社長兼CEO
NECが先頃、年次イベント「C&Cユーザーフォーラム&EXPO2018」を都内で開催した。新野氏の冒頭の発言はその基調講演で、同社が注力している生体認証について語ったものである。
講演のテーマは「Digital Inclusion」。Inclusionは直訳すれば「包括」だが、新野氏はDigital Inclusionについて、「デジタルの世界が社会の隅々に広がり、世界中の人たちがその恩恵を享受し、一人ひとりが明るく輝ける社会を実現したいとの思いを込めた」と心境を語った。
また、デジタルについては、「私は2年前のこの場で、デジタル産業革命が始まったとお話しした。デジタルは単なるトレンドではなく、さまざまな産業形態を根底から変えてしまう可能性があるとも述べた。それからまだ2年しか経っていないが、実際にいろいろなことが相当のスピードで変わってきているのを実感している」との見方を示した。
講演の内容については関連記事をご覧いただくとして、ここではその中で筆者が印象に残った2つのことを挙げておきたい。
まず1つは、デジタルとITという言葉の使用頻度の圧倒的な差だ。およそ1時間の講演だったが、新野氏はデジタルを29回使ったのに対し、ITを口にしたのは1回だけだった。テーマにデジタルが入っていることもあるが、すっかりITがデジタルにすり替わってしまったとの印象を受けた。こうした点にも時代の変化を感じ取ることができる。
もう1つは、NECの事業戦略として顔認証をはじめとした生体認証を前面に押し出していたことだ。新野氏は講演のテーマであるDigital Inclusionに求められる技術として、「スマートコネクティビティ」「サイバーセキュリティ」「AI(人工知能)」「生体認証」の4つを挙げ、それぞれにおけるNECの取り組みを説明した。
ここで筆者が注目したのは、本来ならばAIの一部である生体認証を、AIと分けて取り上げていたことだ。生体認証への力の入れようは、AI技術群に「NEC the WISE」というブランド名を付けているのに対し、生体認証はその構成要素の1つながらも「Bio-IDiom」という個別のブランド名を付けていることでも見て取れる。しかも同氏が講演でそれぞれの直接的な説明に使った時間は、AIが4分だったのに対し、生体認証は4分半だった。
そんな興味深い新野氏の講演だったが、最も印象深かったのは、やはり冒頭の発言である。ビジネス的に言えば、生体認証がデジタルのフロントエンドソリューションになるという話である。このポテンシャルは計り知れないくらい大きいかもしれない。(図参照)
図:生体認証がデジタルのフロントエンドソリューションに