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ITの基本戦略を設定(6):日本企業は基幹系をITの中心に据えてはいけない

宮本認(ビズオース )

2018-12-22 09:30

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」から転載、編集しています)

 前回記事で示したように、日本と海外における企業の違いは、ITの視点で見ると、基幹系システムの重要性の違いとなって表れる。海外企業では、経営やビジネスの中核システムとして組み込まれている。近年、「Core System」という言い方もよく耳にするようになってきた。「Core Banking System」といえば、銀行の勘定系を示す言葉だ。

 しかし、日本の経営者は、どちらかと言えば人間を中心に考える傾向が強い。従業員のやる気を引き出すことに経営者の意義を見いだしている。要は、日本と海外では経営者の情報感度が違うのだ。

 「せっかくERP(統合基幹業務システム)の導入に投資したのに、まだまだ情報化が進んでいない」という経営者と数多く出会ってきた。当たり前である。海外企業と違い、数字を経営に使うようになっていないのだ。実際の権限のある最高財務責任者(CFO)を置くことができるだろうか。経理部門や経営管理部門は、従来通りのままではないだろうか。

 もっと大きな違いは、経営の速度にある。海外企業の場合、特に大手ともなれば、業績管理は週次で行われる。週次で世界の東端である日本から締めが走り、地球の自転と合わせて米国西海岸で締まる。大手金融などはもっとダイナミックで、日次で締めると聞いている。業績を締める回数は、経営判断が行われる回数でもある。海外企業は少なくとも、年間50回以上は経営者がPDCAを回す。一方で、多くの日本企業は月次で業績を管理していないか。日本と海外では、経営の回転数に4倍以上の開きがある。それは、経営者の報酬も違うはずだ。

 業績管理とは、ある意味で決算である。もっとも、四半期や年次の決算とは違い、制度的なものではないので、経営に必要なものだけを締めることになる。日次や週次で決算を行うとなると、システムで処理せざるを得ない。この経営の回転数をマネジメントの中心に据えることが、基幹系を軸にITを考える背景となっている。

 こうした「高回転経営」は、日本の経営になじまない。日本の経営者は、経営判断を下す回数が、海外の経営者と比べて圧倒的に少ない。情報を使う頻度が少ないのだから、情報を使えると言えるわけがない。使えていないと分かっていながら、使用頻度を上げることを考えない。いや、そもそもそういうことを思い付かない。実際に必要がないのかもしれない。いずれにしても、それが日本の経営者なのである。もっとも、思い付いたとしても、今さら経営の枠組みを変えることは厳しいのかもしれない。

 基幹系システムを使いこなすことは、日本企業には無理なのだ。日本企業は、高価な基幹系を入れること自体が間違っている。なぜなら、経営者こそがシステムのユーザーなのだが、日本の経営者は基幹系システムが必要になるほど情報を使わないし、使いこなせない。経営者は自分がユーザーであるということに気付いていないのだ。自分のためではないと思うので、その価値を肯定することもない。

 筆者は「基幹系システムは非常に重要である」と、皆さんと同様に理解していると断言できる。その点を誤解していただきたくはない。基幹系システムとは、伝票・台帳・帳票である。この伝票・台帳・帳票が作成されてないと、顧客にモノやサービスをお届けすることができないだけでなく、請求書の発行も売上金の回収もできない。過剰な在庫や未出荷の商品など、不合理が放置される状態になり、いきなり会社が傾くかもしれない。いわゆる、ミッションクリティカルなシステムである。

 ここで言いたいのは、本来ならば経営者が基幹系システムの価値を引き出してほしいのだが、日本企業では経営者がそこから価値を生み出すことはないということだ。海外の経営者のように経営を行わないからだ。だから、日本の経営にあったなりのコストにするということが、当たり前に必要なのだ。

 海外企業は、経営者自身がカイゼンを積み重ねる。だから、経営者のカイゼン活動のために、高価な基幹系システムを入れる。しかし、日本では経営のカイゼンよりも、現場がカイゼンできる環境と士気を整えようとする。どちらが良い悪いの問題ではない。日本企業の経営スタイルは違うのだ。

 日本のIT部門は、基幹系システムを間違っても高価にしてはいけないのである。そして、基幹系システムにIT部門の投資や労力を掛けようとしてはいけないのである。ここに大きく費用が掛かっているのは、経営からしてみると、すなわちその重要性から鑑みると、ズレているのである。だから、いかにここで費用を掛けないようにするかを、継続して取り組むことでしか、この領域の評価は得られないのである。

 日本企業のIT部門は、基幹系システムの重要性をよく知っているがために、基幹系システムに固執するところがある。しかし、これがさまざまな問題の根源の一つになっていると考えている。

 基幹系の中でさまざまなことを実現しようとし過ぎた。日本企業の情報システムにおける問題の一つは「個別化」にある。基幹系システムを中心に据えるあまり、その機能の中に個別化を取り入れ過ぎてしまった。基幹系が本来役立つべきである、経営の回転数を上げるためのシステムではなく、競争の激しい日本の経営環境で、正確に伝票・台帳・帳票を作成し続けるシステムとして膨張し過ぎてしまったわけだ。

 結果として、基幹系システムが非常に複雑な仕組みになり、ITの進化に対して乗り遅れるシステムを作り上げてしまった。個別の局面では、費用対効果として正しい判断の積み重ねだったのかもしれない。しかし、まさに「イノベーションのジレンマ」が起きてしまったのだ。

 日本人は良いものを作る。与えられた条件の中で最高の努力をする。これは日本人の美徳だ。しかしながら、ITにはそういう発想が向かなかったということだと思っている。現代の複雑なITは、良いものを渾身で作り上げるのではなく、適当なものを適度に組み合わせることが向いているケースが多い。

 だからこそ、日本企業のIT部門には、基幹系中心の戦略は採ってもらいたくない。最大かつ最重要のユーザーである経営者が使わない日本の基幹系には、良いものはいらないのだ。

宮本認(みやもと・みとむ)
ビズオース マネージング ディレクター
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。

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