コンサルティング現場のカラクリ

ITの基本戦略を設定(9):世の中のものをうまく使ってミッションを実現

宮本認(ビズオース )

2019-01-26 07:00

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」から転載、編集しています)

 ここまで何をミッションにするかが、日本の企業では難しいということを説明してきた。日本企業のIT活用がいかに困難であるか、また海外企業のように「技術=革新」と考えるのは危険であるという点にも言及した。

 企業経営は、独自の商品や人材を生かし、爪に火をともすようにコストを削りながら生き永らえようとすることも話した。基幹系というITが最も活躍できそうなところさえ、日本企業はうまくできないことも述べた。そうした中、IT部門は苦戦し、結果的に「独自性」などを考えているような状態ではないというわけだ。

 日本のIT部門は、既に世の中にあるものを使い、コアケイパビリティをそこそこに強化するのだ。ここからは、しばらく理屈ではないモノの言い方を多用することを容赦してほしい。

 これは「二番手戦略」である。うまくいった人のまね事をするのだ。IT部門は苦戦しているからこそ、世の中のうまくいった手法をまねていくのである。ITの世界において二番手戦略は決して悪いことではない。Microsoftが最初にPC用のOSを作ったわけではないし、Appleが最初にスマートフォンを作ったわけではないし、Googleが最初に検索エンジンを作ったわけではない。

 そう。ITはまねしてナンボの世界なのである。先行者利益を得ているという話を、筆者はあまり知らない。慎重な二番手が一番何とかなっている。世の中を見てほしい。実はそうなのだ。だから堂々とまねをしようではないか。

 また、二番手戦略は日本人に向いている。日本人は、特に明治以降、このまね事で成長したのではないのか? 江戸時代、日本はある意味、世界の中の落ちこぼれだった。そこからグローバルスタンダードを学んでのし上がった歴史を持つ。「和魂洋才」という用語まで作った。だから、まねること自体は日本人の成功体験の一つなのだ。

 グローバリゼーションでは、日本企業は救えないという筆者の主張と矛盾するという声もあるかもしれない。そう感じてもしょうがない。筆者が伝えたいのは、グローバルスタンダードをそのまま入れてもダメだということだ。環境が違うからだ。大切なのは、「和魂」の方だ。グローバルスタンダードだって、いいところはあるに決まっている。それをどうまねるか、何を入れて何を入れないかが重要なのだ。

 経営者中心ではなく、従業員中心に動く日本企業ならではの折衷案を探していくことが日本人には得意なのだ。

 もともとのところに独自性はない。まねていくことを自分なりにアレンジしながら使っていくことが日本人は得意なのだ。独自性は日本のトップ企業に任せよう。トップではない多くの企業はどううまくまねるか、そこに注力をしていこう。

 世界で最も古い企業は日本にある。また、200年以上続く企業が世界で最も多いのは日本だという。職人技を無条件に愛する日本人は悪いのか? 政治家をあたかも商品のように使い捨て(2000年以降の日本の政治の変遷は筆者にはそう見える)、次から次へと支持政党を変える日本を、世界はうらやましく思っていないか? アレンジしながらまねることで出来上がった日本は、そうそう悪いものではないのではないだろうか?

 世の中にあるものを学び、上手に使いこなすことをきちんと成し遂げることのどこが悪いのか? それで、経営が求めるコア機能の強化を適切なQCD(Quality、Cost、Delivery)でやること以上に何が必要となるのか?

 経営はそこまでITに多大な期待をしていない。何か画期的なことをやれといっているのか? ITではなく人材活用であり、商品やサービスの独自性を求めているのではないのか? そうした中、ITはそこそこのものをそれなりのQCDでやることができると、それなりに重宝されるのではないのか? 中には、「Googleにできて、なぜうちではできないのか?」とまことしやかに聞く、世間知らずの経営層がいるのかもしれないが、そうした人はせいぜい執行役員どまりで、経営トップにいないのではないか? 落ちこぼれから脱するには、まずは「そこそこ」が「それなりの速度と品質とコスト」でできればいいのではないか?

 繰り返すが、冷静に解析すれば、ITにそこまで多大なことは求められていない。もう一度、この連載の開始点に立ち返ろう。まず、今の状況からの脱出を考えなければならない。

 独自の価値を追求するという発明が求められているわけではない。日本企業の中で、さほど注目されない部署の責任者を任されているのだ。まずは、そこそこから行かなければならない。自分の理想は、ひとまず置いておこう。会社を引っ張るようになるという理想。それはこの連載の最後にまで取っておくことを強くお勧めする。

宮本認(みやもと・みとむ)
ビズオース マネージング ディレクター
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。

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