情報処理推進機構(IPA)は、業務の委託元や委託先間の情報セキュリティーに関する取り決めに関する実態調査の結果を発表した。
これによると、「新たな脅威(脆弱性など)が顕在化した場合の情報共有・対応」について責任範囲の明記がない割合は8割に上ることが分かった。また、またインシデントが発生した場合の対応も6割強が記載しておらず、IPAでは、このような委託元はインシデント発生時に迅速な対応が難しく、被害拡大、復旧遅延の可能性があるとしている。
委託元が文書で明確にしているセキュリティに係る要求事項(委託元調査)
また、責任範囲が明確にできない理由をたずねたところ、「専門知識・スキルが不足している」について「強くそう思う」(28.3%)と「ややそう思う」(51.3%)を合わせると79.6%が不足している結果となった。
委託元が責任範囲を明確にできない理由(委託元調査)
IT業務託契約時に、委託元からのセキュリティに係る要求事項(責任範囲)に不明瞭な部分が残ってしまう場合に、委託先が何らかの対策を行っているかを調査したところ、主に、自組織内でリスクを低減するための対策を実施していることが判明している。主な施策としては、社内の受注審査、委託元との協議内容の記録、契約内容の変更、想定リスクの洗い出しなとが挙げられている。
さらに情報セキュリティに係る要求事項(責任範囲)をどんな契約内容文書に記載しているかを調査したところ、最も多いのは契約書で、回答した委託元企業の96.5%で用いられていた。
さらに、責任範囲を明確にするために有効な施策について委託元に複数回答でたずねたところ、「契約関連文書のひな形の見直しが有効」という回答が最も多かった。しかし、ヒアリングした企業からは、契約書のひな形や契約書の内容の見直しは、社内手続きや取引先との調整に労力を必要とするため、容易ではないとの意見も出たという。
IPAでは、2017年5月に民法が改正され「瑕疵(かし)担保責任」が「契約不適合責任」に変更されたことを挙げ、契約時における契約内容の明確化がより一層求められるようになっていると指摘している。これに伴い、2020年4月の改正民法の施行を見据えた、ひな形を含む契約関連文書の見直しが急がれているとし、情報セキュリティに関する要求事項についても修正、追加の必要がないかを検討をされることが望ましいとしている。
調査は、2018年10月~2019年2月に実施された。対象はユーザー企業の417社とITシステム・サービス提供企業の428社で、事例調査では国内ユーザー企業、IT企業、有識者など計10件のヒアリングを行った。