Ubuntuを手掛ける英Canonicalは、クラウドやIoTの普及を追い風に日本市場での事業展開を加速させていくという。同社の幹部に今後のビジネス戦略などを聞いた。
Canonical Japan リージョナルセールスマネージャーの柴田憲吾氏は、「日本市場でのUbuntuは過去5年間に年率30%で成長を続けている。2018年から日本への投資を拡大しており、ドキュメントの日本語化や日本語によるサポートの提供も始めた」と話す。
同氏によれば、現在のUbuntuは、従来のLinuxデスクトップとしての利用にとどまらず、クラウドインフラやIoTデバイスにも利用が拡大しており、特にエンタープライズユーザーの広がりが見られる。「以前なら、日本のユーザーは価格が高くても良い製品を買うという意識だったが、現在では安く良い製品を選ぶ意識に変わってきた」(柴田氏)
日本では約80%が直接販売であり、間接販売は少ない。それにも関わらずユーザーが拡大する背景には、個人レベルで無償利用から始められる手軽さと、同社がサポートするオープンソースソフトウェア(OSS)のカバレッジやサポート品質の高さ、活発なユーザーコミュニティーなどの存在があるとしている。直近では、ヤフーやSBI BITSが新たなユーザーとなった。
Canonical Japan リージョナルセールスマネージャーの柴田憲吾氏(中央左)、英Canonical製品担当ディレクターのStephan Fabel氏(中央右)
Canonicalで製品担当ディレクターを務めるStephan Fabel氏は、「例えば、5年の利用期間においてユーザーにとって最もコスト効率に優れた投資になるよう製品やサポートを提供している点が強みになる」と主張する。
5月には、LinuxやKubernetes、Docker、OpenStack、KVM、Ceph、SWIFTのセキュリティ更新プログラムやサポートをパッケージに統合して同社が10年間のサポートを行う「Ubuntu Advantage for Infrastructure(UA-I)」の提供を発表した。
「UA-Iは、これまでソフトウェアごとに対応しなければならなかったライセンスやサポートを長期にわたって一本化することにより、ユーザーの負担を軽減する。クラウド時代はこの点が大きな課題であり、UA-Iを活用すれば少なくとも初期コストを70%削減できるだろう」(Fabel氏)
また、サポートについても年次を経るごとにコストを低減していけるメニューを検討しているといい、「ボリュームライセンスのようなエンタープライズユーザーにもメリットのある内容を提供していく」とFabel氏は話す。
日本市場に対しては、現在の投資ペースを継続して事業体制を拡大させるほか、通信や自動車、ロボティクスなど日本に競争力の強みがある業界での導入事例の拡充を進めることで、さらなる普及を推進していくという。
なお、同社の新規株式公開(IPO)が度々話題になるが、Fabel氏は「(IBMによるRed Hat買収で)不安を抱くユーザーがいることは認識している。もちろん事業の成長を目指しているが、それによって多くのOSSを安心して使えるようにユーザーに提供し、変革を支援するというわれわれのビジョンが変わるわけではない」と述べている。