本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、富士通の磯部武司 執行役員常務兼CFOと、NECの森田隆之 代表取締役 執行役員副社長兼CFOの発言を紹介する。
「DXのような新領域の業績についても今後、情報開示していきたい」
(富士通 磯部武司 執行役員常務兼CFO)
富士通の磯部武司 執行役員常務兼CFO
富士通が先頃、2019年度第1四半期(2019年4〜6月)の連結決算を発表した。同社の執行役員常務兼最高財務責任者(CFO)である磯部氏の冒頭の発言は、その発表会見の質疑応答で、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関連する事業領域の業績的な状況を聞いた筆者の質問に答えたものである。
同社によると、2019年度第1四半期の連結業績は表1に示すように減収減益となった。減収は円高およびデバイス事業の再編が影響。また、大幅な減益は前年度に計上したPC事業の売却や年金制度の変更による反動が出た。ただ、これらの特殊要因を除いた本業ベースでは、国内ITサービスが好調に推移したことなどにより、実質的に増収増益となったとしている。
(表1)富士通の2019年度第1四半期の連結業績概要(出典:富士通の発表資料)
さらに詳しい決算内容については発表資料をご覧いただくとして、ここでは磯部氏の冒頭の発言に注目したい。
発表会見の質疑応答で筆者が質問した内容は、「富士通はDX事業に注力しているが、決算内容からはその中身を知ることができない。具体的にどんな領域に重点を置き、それがどれくらいの勢いで伸びているのか。もう少しDX事業領域の業績的な状況を開示してほしい」というものだ。
この質問内容の背景を少し説明しておくと、富士通は今、「IT企業からDX企業へ」とのメッセージを6月24日付で代表取締役社長に就任した時田隆仁氏のさっそうとした姿とともに、新聞の全面広告などで大々的に発信している。「DX企業」と銘打つならば、決算でもその中身を明確に示すべきだろう。
もう1つ、筆者がこの質問をした背景には、同じ企業向けIT事業を手掛けている外資系ベンダーなどは、たとえ全体の業績が振るわなくても、重点事業で伸びた領域を強調することによって存在感を示すケースが少なくない。その強引さにあきれることもあるが、自分たちはどこへ向かっているのか、を明確に示す貪欲さが日本企業にもっとあっていいというのが、筆者の見方である。
ということで、筆者の要望も込めた質問に対し、磯部氏は次のように答えて心意気を見せた。
「当社が注力しているDX事業の内容を決算会見でも開示すべきとのご要望には、おっしゃる通りだと思っている。ただ、DXといっても既存の事業と絡み合っているケースが少なくなく、どのように新しい事業領域としてお伝えしていくかを、今内部で検討しているところだ。そのうち、分かりやすい形でお伝えできるようにしたい」
新社長の時田氏と同じタイミングで執行役員常務兼CFOに就任した磯部氏の手腕に、大いに期待しておきたい。