日本オラクルは8月6~7日、「次世代クラウドが変える日本のビジネス」をテーマにしたイベント「Modern Cloud Day Tokyo」を都内で開催した。「Oracle Cloud」の東京リージョンを開設して国内展開を本格化させる中、初日の基調講演では“エンタープライズクラウド”としての立ち位置を明確にし、先行する競合サービスとの違いを強調した。
講演冒頭に登壇したのは、日本オラクル 取締役 執行役社長 最高経営責任者(CEO)のFrank Obermeier氏。今回のイベントには7000人の来場登録があり、2日間をかけて同社のクラウド戦略や製品・サービスに関する最新情報を紹介していくと説明した。
同氏はまず、5月に開設したOracle Cloudの東京データセンターと、年内に開設予定の大阪データセンターについて触れ、国内展開で先行するMicrosoftやAmazon Web Services(AWS)、Googleなどの競合他社と「対等になった」とアピール。その上で、Oracle Cloudに関しては、「選択肢」「完全性」「技術力」という3つの点で優位性があると話した。
「選択肢」「完全性」「技術力」をアピール
Obermeier氏によると、顧客はデータセンターに対してできるだけ多くの選択肢を求めている。パブリッククラウドとプライベートクラウド、またそれらを組み合わせたハイブリッドクラウドへのニーズはそれぞれにあり、同社では「顧客に最大限の選択肢を提供する」というスタンスを取っている。パブリッククラウドでは、東京と大阪にデータセンターを設け、プライベートクラウドでは「Cloud at Customer」を提供している。また顧客のデータセンターを高速に接続するハイブリッドソリューションも用意する。「顧客がそれぞれのペースでクラウドに移行できるよう」に支援していくとした。
また、クラウドの「完全性」も意識している。クラウドサービスとして、IaaS、PaaS、SaaS、さらにはDaaS(Data as a Service)までそろえている点を強調。顧客は全ての階層でビジネスを展開しているため、こうした完全性はとても大きな意味を持つという。
オラクルはオンプレミスの環境において、ミドルウェア、データベース、ビジネスアプリケーションなど、包括的なスタックを提供してきた。クラウドサービスでも同様であり、「これは大きな差別化要因になる」とする。競合はIaaSとPaaS、あるいはSaaSのみなど、一部のクラウドサービスを持つにとどまっており、クラウドベンダーを決めるときに「完全性」というのはとても重要な基準になると話す。
3点目が「技術力」である。エンタープライズの領域において、顧客は最高レベルのセキュリティや性能、拡張性を求めている。同社が“Generation 2”と呼ぶクラウド基盤「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」と、自律型データベース「Autonomous Database」を開発してきた。
エンタープライズレベルの顧客ニーズを満たすには自律機能が必要不可欠であると認識し、人工知能(AI)や機械学習(ML)といった技術を自社のコアサービスの中に組み込んでいく必要があったという。
「われわれはエンタープライズの領域に注力してきた。ここで話した選択肢、完全性、技術力については、競合と異なる大きな価値になると考えている」(Obermeier氏)
続いて、米Oracle テクノロジーライセンス&システムズ ビジネスデベロップメント シニアバイスプレジデントのAndrew Sutherland氏と、日本オラクル 専務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括のPeter Fleischmann氏が登壇。
(左から)日本オラクルのObermeier氏とFleischmann氏、米OracleのSutherland氏
Sutherland氏は、ITシステムを建物に例え、大きく複雑なシステムを構築する際には基盤が重要になると説明。パブリッククラウドは、多くのアプリケーションが稼働している状況であり、基礎が重要になる。今のクラウドに求められるのは、既存のアーキテクチャーよりもはるかに要求が高く、Oracleでは全く新しいクラウドのインフラを設計した。それがOCIになる。
Fleischmann氏は、ビジネスアプリケーション群についても今後6カ月以内に東京と大阪の国内データセンターから提供を開始することを明らかにした。同社のSaaSはCX(顧客体験)、HCM(人材管理)、ERP(統合基幹業務システム)、SCM(サプライチェーン管理)、EPM(企業パフォーマンス管理)など多岐にわたり、IaaS/PaaS/SaaSの全レイヤーにわたって、同一のデータセンターとアーキテクチャーで稼働する環境を提供できるようになる。また、SaaSの標準機能で足りない分は、IaaS/PaaSで拡張機能を構築し、シームレスに連携することも可能だとアピールした。
次に登壇した米Oracle プロダクトマネジメント バイスプレジデントのVinay Kumar氏は、Oracle Cloudのデータセンター戦略について語った。
米OracleのKumar氏
およそ10年前に登場し、同社が“第1世代”と呼ぶクラウドは、即座にITインフラを稼働させられるなど、非常に多くのメリットがあった。しかし一方で、開発者やスタートアップ企業には適していたが、セキュリティとサービス設計が不十分であり、エンタープライズ向けではないことが分かった。そこで、オラクルはエンタープライズに必要な機能を追加した。直近でも、3カ月の間に1万4000の変更を加え、100以上の機能を導入した。
東京データセンターについては、5月のサービス開始から既に500社以上の顧客が利用を始めているという。これまでのリージョンと比べて3倍のペースで成長しており需要の高さを裏付けている。今後は15カ月をかけて1カ月当たり1つのリージョンを作っていき、それぞれ最低2つのデータセンターを設け、災害復旧(DR)に対応していくとしている。
Oracle CloudとMicrosoft Azureのダイレクト接続サービスも発表した。両クラウド間の低遅延な通信を可能とし、シングルサインオン(SSO)にも対応する。現在は北米だけで利用できるサービスだが、グローバルの展開も計画している。
最後には、AWSに対する性能や価格の優位性も強調した。コンピュートは45%、メモリーは14%、ブロックストレージは525%もOracle Cloudの方が高性能で、仮想マシンは49%、ブロックストレージは98%、ネットワークは92%ほど低コストだと主張した。「HPCワークロードにおいては、4倍の性能でありながら、87%も安価だ。Oracle Cloudであれば、1日に4倍のシミュレーションを実行できる」(Kumar氏)
Oracle CloudとAWSのコスト比較