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企業の内外に広がりを見せる顧客サポートとCXの重要性

國谷武史 (編集部)

2019-09-24 06:00

 企業と顧客の関係性を高めるべく顧客により良い体験を提供する「CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)」が注目されている。主にはマーケティングの観点で使われる言葉だが、最近では企業と外部の顧客の関係性だけではなく、企業内でもCXの可能性に着目するシーンが見られ始めているという。CXを軸としたカスタマーサポートのSaaSを提供するZendesk社長の藤本寬氏にCX市場の動向などを聞いた。

Zendesk 社長の藤本寛氏
Zendesk 社長の藤本寛氏

 同社は2007年にデンマークで設立され、企業と顧客とのやりとりを一元管理する機能群をSaaSで提供する。企業のカスタマーサポート部門がメインユーザーであり、国内では2500社以上がサービスを利用している。

 「国内ユーザーが1000社を超えた3年ほど前から、JapanTaxiなど、伝統的な企業ながらデジタルで新しいビジネスを展開しようとする新しいユーザー層が増えている。さらに最近では、従業員向けに導入するような新しい用途も見られるようになってきた」(藤本氏)

 カスタマーサポートでのコミュニケーションは、従来はコールセンターにおける電話応対が主流だった。インターネットの普及が進んだ2000年代からメールやウェブフォームなど“デジタル”の手段が登場し、これらの機能をSaaSで容易に導入できることから、同社の主要顧客はECなど新興のオンライン企業が多い。

 コールセンターによるカスタマーサポートは、顧客の“生の声”という大きな資産を得られるだけに大きなメリットがあるものの、システムの構築やオペレーターの採用・育成、顧客応対ノウハウの蓄積など、構築と運用の安定化に多くの費用と時間を必要とする。デジタルビジネスに乗り出したばかりの伝統的な企業にとって、主要事業でのカスタマーサポートのリソースを新しいデジタルビジネスにも割くのは負担やリスクが大きいという。このため、クラウドを活用してスモールスタートするところが増えてきている。

 またCXでは、商品購入時など単一の接点だけではなく、問い合わせや相談などを含めたさまざまな接点における適切なコミュニケーションを通じて顧客の満足度を高め、長期にわたる良好な関係性を構築、維持することが重要になる。「顧客満足度を高めるために対話が重要で、われわれの視点としては、あらゆる接点を通じてコミュニケーションの可用性を確保していくことがポイントになる」(藤本氏)

 同社のサービスでは、顧客接点としてメールやウェブに加え、電話やSNS、チャットなどのコミュニケーションツールに対応を広げてきたというが、いずれにしても昨今の企業は、クラウドを活用して顧客とのコミュニケーションとその履歴を一元化することに取り組んでいるという。藤本氏がここでのキーワードとして挙げるのが、「エフォートレス」だ。

 「特にカスタマーサポートでは、音声認識やチャットボットなどへの関心が高まっている。問い合わせをする顧客のアクションを減らして、質問や相談に最短で応じられるようにするもので、顧客にとっては電話を掛けるだけでも負担になる。チャットボットで簡単に回答できるようにするのも一種のサービス向上策といえ、できる範囲でやってみようという動きがあるようだ」(藤本氏)

 また、実は日本のコールセンターにおける人材不足も大きな課題になっているという。CXの重要性を認識する企業が増える一方、少子高齢化に伴ってオペレーターの採用や育成が難しくなっている。「企業としては顧客とのコミュニケーションを減らすわけにいかないが、対応人数には限界があり、問い合わせへの対応の負担を増やさないという意味でもチャットボットなどテキストベースのコミュニケーションに注目する企業が本当に多い」という。

 Zendeskでは、顧客接点の広がりに対応すると同時に、データアナリティクスやCRM(顧客関係管理)連携などによるクラウドサービスのプラットフォーム化を進める。「あくまでカスタマーサポートにおけるコミュニケーション基盤の立場だが、APIを通じた外部ツールとの連携に加え、2018年には『Sunshine』というプラットフォーム構想を発表した。ユーザー企業が顧客との関係性を深く理解していくための機能を順次提供していく段階にある」(藤本氏)

 現状でCXは、企業と外部にいる顧客との関係性に注目が集まっている。だが、Zendeskの新しいユースケースという企業と従業員、いわば“社内CX”の潜在的な可能性も無視できないだろう。例えば、鴻池運輸では約1万人の現場社員から寄せられるITに関するサポートを電話からZendeskに切り替えたという。

 「社内向けの用途についてはまだ不透明だが、業務に関する相談を担当部署に聞きたいといったニーズは間違いなくあり、受ける側でも毎回同じような相談や質問に対応することが負担になっている。働き方改革の流れからコミュニケーションツールを活用するような動きが出てくるかもしれない」(藤本氏)

 社内向けのコミュニケーションツールとしては、昔からグループウェアやチャット、コラボレーションなどのさまざまな専用ツールが提供され、既に多くの企業が導入している。ただ“CX”として捉えれば、コミュニケーションの相手が社外の顧客か、社内の従業員かという違いがあっても、「良好な関係を構築、維持する」という点は同じ。今後は、顧客と従業員との良好な関係を通じて企業の収益性や競争力を確保する“CX戦略”がポイントになりそうだ。

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