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単なるコスト削減から新しい価値を生むツールへ--ブループリズムCEOに聞くRPA最新動向

末岡洋子

2019-09-30 07:00

 数あるRPAベンダーの中でも、英Blue Prismは創業19年目の古参だ。RPA(Robotic Process Automation)という言葉も同社が生み出したと言われている。さまざまな専業ベンダー、さらにはERP大手の独SAPもRPA機能を用意するなど競争が激しいが、Blue Prismの強みは何か? 同社 共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるAlastair Bathgate氏に話を聞いた。

Blue Prismの共同創業者でCEOのAlastair Bathgate氏。社名について「ブルーはプロフェッショナルな色、プリズムは技術の伝達」と述べた後、好きなサッカーチームであるManchester City Football Clubのチームカラーであることを付け加えた
Blue Prismの共同創業者でCEOのAlastair Bathgate氏。社名について「ブルーはプロフェッショナルな色、プリズムは技術の伝達」と述べた後、好きなサッカーチームであるManchester City Football Clubのチームカラーであることを付け加えた

--2019年に入り“Connected-RPA”という概念を打ち出した。

 Connected-RPAとは、ヒト、プロセス、システムをつなげるRPAという意味だ。われわれは、企業の競争優位性を高める戦略や革新的な考えを持っている社内の人々に力を与え、組織をつなぎ合わせることによって、迅速なオペレーション体制を構築する助けになりたいと思っている。Connected-RPAに加えて、事前に構築された自動化処理をスキルとして提供する「Digital Exchange(DX)」がその役割を果たす。

 Connected-RPAを推進する背景には、他社が提供するRPAツールとの違いを示すという狙いもある。デスクトップ上のタスクを自動化することにフォーカスしたツールが多いが、Blue Prismはエンタープライズでの活用に主眼を置いている。つまり、セキュリティや法令順守などを配慮したデジタル労働力(=RPA)を管理・制御できる。

 単に業務側で特定のタスクを自動化するのではなく、組織全体で連携しながら新しい機能を作る。これにインテリジェンスが加わり、組織と戦略が結び付く。最終的に迅速なオペレーションへとつながる。

--Digital Exchange(DX)を活性化させるための戦略や計画は?

 現時点での狙いは新たな見込み顧客の獲得だが、EC(電子商取引)サイトのようなサービスにしていく。先ごろ、DX内でBlue Prismのライセンスを購入できるようにした。今後、パートナーなどが自社製品を再販できるような場所にしていきたい。そのために、ユーザーが簡単に利用できるようにすることも重要だ。

 エコシステムを構築すると、さまざまなものをバラバラに購入しなければならないが、DXによって一カ所でまとめて入手できるようになると顧客への利便性が増す。DXではプライベート機能を導入し、社内のみでスキルを公開できるようにしている。

--Blue Prismは金融業界向けのツールとしてスタートしたが、業界や業種に特徴はあるか?

 ユースケースは数え切れないぐらいある。業界としては、財務・金融と保険が最も多く、製造、通信、小売、公益などが続いている。業界としては15種以上あり、人事、営業、財務管理、顧客サービスなどさまざまな部署で利用されている。請求処理などの共通部分もあるが、業界固有のものもあり、まさにロングテールだ。

 物流企業のSchneider Logisticsは、モノのインターネット(IoT)と組み合わせ、運転手に送られるテレマティクスメッセージへの対応で利用した。エンジン交換は大きなコストだが、急を要するものかどうかの意思決定が正確かつ迅速になり、無駄なコストを削減できた。

 ある航空会社は、Blue PrismのRPAを使って空域と機材のモニタリングを行い、フライトの効率化を図っている。人力では不可能だったことがデジタル化によって可能になり、売上増につながっていると聞く。Ernst & Young(EY)はパートナーであると同時に顧客でもあり、出張予約のタイミングを調整することで、年40万ドルの経費削減が図れたと聞いている。

 最近の事例から感じるのは、企業がデジタル労働力を実際に活用できると認識するようになったことだ。さらに、単なるコスト削減の手段から、新しい価値を追加できる道具であると気付き始めたようだ。法令順守の強化だったり、新たなサービスの提供に期待が集まっている。

 どのようにプロセスを自動化すべきかと聞かれたら、既存のプロセスに加え、これまでやったことがないことをRPAで実現するように勧める。

--成功するRPAのコツは?

 RPAは事業部門が主導になるが、IT部門と共同でConnected-RPAを実装する必要がある。企業は業界の規制を守らなければならず、セキュリティの要件も高く、拡張性も要求される。さらにはトランザクションの一貫性も満たさなければならず、ガバナンスも必要だ。ここはIT部門が重要な役割を果たす。

 事業側は自由にロボットを設計でき、IT側はデジタル労働力が健全な状態であることを確実にする。このバランスが大切だ。そのためには、同じ目的に向かって共同作業するという意識が重要だと考える。事業担当者は早い段階でIT担当者やセキュリティ担当者とリスク管理について話すと良いのではないか。

 トップダウンかボトムアップかという点では、両方とも必要だ。特にトップレベルの支援があることは重要だ。TD Bank Groupは、CEO自身がRPAの導入に責任を持ち、毎日のように報告を受けていたことが成功に大きく寄与した。

--RPAの阻害要因や課題は? それに対するBlue Prismの解決策は?

 RPAを試してみたものの、その後の利用を広げられないという声を聞く。その理由は、「チェンジマネジメントが欠如または不十分だった」「野心や目標がない」「明確な目標や方向性がない」「経営からの支援がない」などさまざまだ。このような場合、RPAに限らず、新しい技術や変化を受け入れるに当たって文化的障害があるといえる。

 われわれは“Go To Market”パートナーを用意している。チェンジマネジメントやオペレーティングモデルの変更について助言し、組織内でのデジタル労働力の実装を支援するパートナーだ。

 これに加えて、Success Accelerator Programも提供する。2019年に入って発表したもので、Blue Prismの技術に詳しい専門家がConnected-RPAの実装を支援する。フレームワークや方法論を敷いた状態にして確実に機能することを目指して作成した。

--ユーザーインターフェースはどうか? ビジネスユーザーがより簡単にRPAを活用する必要がある。

 DXはここで大きなインパクトを与えることができると期待している。事前に構築されたオブジェクトがあり、ドラッグ&ドロップで簡単にプロセスフローを作成できるからだ。これまではルーチン作業の自動化に数日~数時間を要していたが、大幅に短縮されるだろう。

 また、自動化したい操作をレコード(記録)してスクリプトを再生するデスクトップ型RPAとの差別化にもつながる。この方式では、プロセスに変更があるとやり直しが必要になりスケールしないが、Blue Prismはビルディングブロック構造であるため柔軟性と拡張性を確保できる。

--SAPもRPA機能を提供するようになった。UiPathは先に大型投資を受けることを発表した。活気付くRPA市場でどのような戦略を立てているのか?

 エンタープライズRPAがわれわれの大きな差別化となる。また、RPA専業ベンダーなので技術に依存していない中立性は重要だ。

 資金という点では、われわれも2019年1月に1億ポンドの資金調達を発表した。製品開発や営業活動・販売促進に投資していく。

--AI Labsを立ち上げたが、どのようなことを行っているのか?

 人工知能(AI)や機械学習についての研究を行っている。深いレベルでのリサーチから実用的なニーズに応えるものまで研究している。

 先日発表した「Blue Prism Decipher」はこの研究所から生まれたもので、請求書処理を自動化したいというニーズを受けてのものだ。コンピュータービジョンを使って文書のフォーマットや場所を問わずにデータを特定・抽出し、RPAによる処理で使用できるようにするものだ。

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