ZDNet Japanは2019年10月17日、「ZDNet Japan Summit 2019--『失われた20年』から解放」を開催。特別講演では、パナソニック コネクティッドソリューションズ社(以下、CNS社)の常務 CDO/CIO(最高デジタル責任者兼最高情報責任者)を務める榊原洋氏が登壇し、「100年企業パナソニックが挑む“働き方改革”と“デジタルトランスフォーメーション”」と題して、CNS社がどのような目的を持って、どのような方法で働き方改革とデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいるかについて紹介した。
日本企業が挑む働き方改革のあるべき姿とは
働き方改革とDXは、日本企業において重要な経営課題になっているが、主に海外からやってくる改革のトレンドをどう自社の改革に取り入れるべきかで悩む担当者は少なくない。しかし、米国の西海岸の企業に勤務した経験を持つ榊原氏は、「他社の働き方改革の担当とお話しする機会は多いが、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)や海外ベンチャー発の改革トレンドをそのままマネして迷走している日本企業が多いのを感じる。自社の強みを冷静に分析した上で、各自に合った改革の方向を設定するのがよいと思う。」とアドバイスする。
パナソニック コネクティッドソリューションズ社 常務 CDO/CIOの榊原洋氏
実際、GAFAに代表される先進的と言われている企業は、働き方改革の先陣を切っている。個の力を最大限に引き出し、アジャイル開発の手法を駆使して新たなプラットフォームを創出することによりビジネスを変革してきており、そのための働き方が徹底されている。その一方で製造業に代表される日本の伝統的な企業は、組織力を駆使して匠の技を磨き、カイゼンを積み重ね、高品質の製品を世の中に送り出してきたという大きな強みを持っている。働き方も、それを前提に作られている。
「この2つの道のどちらかを単純に二者択一で選択するのではなく、両方の強みを“因数分解”し、真似すべきところとそうでないところをきちんと切り分け、再合成することによって、新しい第三の道を導き出す必要がある。これが日本企業の目指す働き方改革のあるべき姿であり、その方向は企業によって異なる」と榊原氏は指摘する。
製品・技術起点から顧客起点への事業変革
パナソニックでは、いいものを大量に物を作れば売れる時代は、技術要素やハードウェアデバイスが価値の源泉の中心であり、ソフトウェア開発や販売促進などのノウハウは補完的なものに過ぎなかった。CNS社では現在、こうした従来の製品・技術起点のアプローチをベースとしつつ、新たな顧客起点のアプローチの実現に向けた事業の変革を図ろうとしている。
顧客起点のアプローチとは、コンサルティングやプロジェクトマネジメント、業務ソフトウェア開発などのノウハウを価値の源泉と位置づけ、そこからハードウェアデバイスや要素技術の開発へとつなげていくというものだ。ただし、顧客起点の業務変革と言っても、製品・技術起点のアプローチを捨て去るわけではない。榊原氏は、「製品・技術起点のアプローチはCNSの強みでありつづける。その上で、顧客起点のアプローチを新たな改革として取り込んでいく」と強調する。
ここで注目すべきは、パナソニックがこれまで長年にわたって製造現場で培ってきた知見やノウハウである。例えば、品質・技術の確立と伝承、徹底的なカイゼン、熟練工の技術伝承などは世界に誇れるレベルにあり、プロセスコントロール、安全確保のためのリスクマネジメント、従業員の質を担保するトレーニングについても目をみはるものがある。また、最近では、スマートファクトリー化やITを駆使した省力化・自動化の取り組みも進んでいる。
これらの先進的な製造の知見やノウハウは、「自社の顧客起点の業務改革に生かせるだけではなく、そのエッセンスは他業種の非製造の現場にも活用できる。実際、他社からの引き合いは非常に多い」と榊原氏は指摘する。例えば、物流には、効率性の追求や品質管理、安全性の確保などのノウハウを生かすことができる。同様に、パナソニックの先進的な製造ノウハウのエッセンスは、小売や外食にも活用することも可能だし、実際に多くの案件が進んでいる。
CNS社は、こうした知見やノウハウを、製造、物流、小売、外食産業の企業の問題解決に生かすべく「現場プロセスイノベーション」というキーワードで事業化している。これは、パナソニックが100年にわたり製造業として培ってきた知見やノウハウを活かして、現場の課題の見立て力や、専門性のある堅牢なエッジデバイスに、ICTシステムを組み合わせ、顧客起点のソリューションを提供するというものだ。そして、そのカギを握るのが、「もの」が動く現場である。これによって、AIやエッジコンピューティングで得られたフィードバックを現場の知見やノウハウとともに活用することが可能になる。まさにCNS社の独自性が発揮される領域であり、多くの日本企業が求めている領域でもある。