企業向けクラウドストレージサービスで成長してきたBoxは、現在その軸足をコンテンツ管理に移している。日本ではセキュリティ強化や「働き方改革」への企業ニーズを背景にクラウドでのファイル共有なども身近になってきたが、Box Japan 代表取締役社長の古市克典氏は、「コンテンツを使い倒すことが重要」と話す。日本市場の動向や戦略を同氏に聞いた。
Box Japan 代表取締役社長の古市克典氏
古市氏は、2013年のBox Japan設立時から同社を率い、2019年末で6年半が過ぎた。シェアオフィスで日本の事業を立ち上げ、現在は東京駅八重洲のオフィスで100人を超える社員と約5200社の顧客を抱える規模にまで成長した。昔のクラウドストレージは、その手軽さからベンチャーやスタートアップが利用するサービスと見なされていたが、ここ数年でそのイメージは大きく変わり、大企業導入も珍しいものではなくなっている。
「当初はクラウドストレージへの需要が日本にあるのか全く読めなかった。しかし、折しも国内で大規模組織の情報漏えい事故が相次いだことを受け、セキュリティの強化とIT部門が導入しやすい選択肢として、Boxを導入していただいた。それが第一の波になった」
企業がBoxを採用する最大の理由は、散在しがちな業務で利用するコンテンツやファイルを一元的に管理することで、セキュリティリスクを減らすことにあったという。社内外でメールやファイルサーバーを介してコンテンツやファイルを作成・加工しようとすると、ユーザーは利便性を優先してローカルのPCなどにデータを置いてしまいがちになる。結果的に新旧のデータが散在して漏えいリスクが高まり、適切に管理するのも難しい。
そうした状況を改善する上で、クラウドのストレージにコンテンツやファイルを集約できる機能が注目され、Boxでは容量無制限などのメリットを訴求して日本市場に受け入れたという。ただ、それだけでは単にストレージやファイルサーバーの代替手段に過ぎず、古市氏のいう「コンテンツを使い倒す」という本来の利用目的には至りにくい。
「第2の波は、2015年頃から現在に続く働き方改革になる。SaaSソリューションも広がりを見せていることで顧客の選択肢が広がり、まずはコンテンツをBoxに一元化して、そこから活用を目指す顧客が増えている。コンテンツを使い倒していける環境づくりを推進している」
現在のBoxは、「Future of Work(未来の働き方)」をコンセプトに掲げ、コミュニケーション/コラボレーション、業務アプリケーション、プロジェクト管理、セキュリティなど、ファイルやコンテンツを取り巻く領域のSaaSベンダーらと連携したベストオブブリードを戦略の中核に据える。
同社自身は、ファイルやコンテンツの管理と活用のためのプラットフォームに特化し、APIを通じてBoxに格納されたファイルやコンテンツをさまざまなSaaSの機能で利用できるようにすることで、企業への導入を加速させようとしている。BoxとAPIで連携するパートナーソリューションは、グローバルでは約1400種類、日本独自では約140種類をそろえる。そのメリットをどう顧客に認識してもらえるかが、今後の挑戦になるという。
「日本は米国以上にセキュリティを重視する傾向にあり、最初から全社導入することで一元的に管理できるようにするケースが多い。一方でSaaSの活用などは米国よりも慎重な傾向にあり、セキュリティと利便性がトレードオフではなく両立できることを訴求していく」
この部分では、2019年7月にリリースしたワークフローの自動化とビジネスプロセスの管理を担う「Box Relay」が中核になる。Box Relayでは、コンテンツやファイルの作成、更新、移動、承認といったイベントをトリガーにして、ワークフローを自動化する。また、IBMなどの技術を活用して精度の高いメタデータ(属性情報)の抽出や付与も自動化する。
「Box自体としては、ユーザーの使い勝手を高めることにフォーカスし、まずはコンテンツのデジタル化を推進している。最近は動画像コンテンツの活用も増えており、メタデータを使って必要なコンテンツをすぐに見つけ出したり、公開までのフローを効率化したりできるようにしていく」。同社では、「カスタマーサクセスマネージャー」と呼ぶ担当者が顧客企業に寄り添い、コンテンツの蓄積・共有から活用へステップアップしていく支援にも注力しているという。
2020年は、こうした取り組みを通じてクラウドベースの“新しい働き方”の企業への浸透を目指すと古市氏。「特に日本では金融や公共分野での動向がポイントになる。常に寄せられる新しい顧客ニーズへパートナーと連携して応えながら、コンテンツを使い倒していただける環境を広めたい」と話す。
また、近年に相次ぐ大規模な自然災害のリスクという観点からもクラウドが注目されているといい、多様な働き方や生産性の向上、業務効率の改善、事業継続性の確保といった多面的な課題に対するクラウドの活用を提案していくとしている。