イスラエルは、ベストセラーを記録したビジネス書籍「Start-up Nation--The Story of Israel's Economic Miracle」(スタートアップネーション--イスラエル経済の奇跡)を受けて、「スタートアップネーション」と呼ばれることもしばしばある。世界経済フォーラムは、「イスラエルにはおよそ4000社の新興企業があり、ベンチャーキャピタルからの投資額は国民1人あたりにして米国の2.5倍、欧州の30倍に及んでいる」と伝えている。また、テルアビブの住民1人あたりの新興企業数はシリコンバレーに次いで世界第2位だという調査もある。
こういった数字の背後には、兵役で得られるほかに応用可能な教訓や、リスクに対する態度とともに、同国の政治的および経済的な孤立状態から生まれる影響が含まれている。
イスラエルはアラブ諸国のほとんどから国家として承認されていないため、同国の企業はアラブ諸国以外の地域との関係を培わなければならない。また、経済協力開発機構(OECD)が調査した、国家経済に占める研究開発への投資比率を見た場合、同国は世界中のどの国家よりも多額の投資を実行している。
高度に都市化された国家で、人口の82%がオンラインに接続し、116%がモバイル契約を結んでいる。ピュー研究所が27カ国を対象に実施した調査によると、スマートフォンの所有率では88%と世界第2位、そしてソーシャルメディアの利用率では77%で世界第1位だという。
こういった状況が「シリコン・ワディ」、ならびに成長を続けるデジタル経済の土台を築く上で力となっている。Economistの2012年の記事では、「2010年における1人あたりのベンチャーキャピタル調達額は米国で75ドル(約8100円)である一方、イスラエルは170ドル(約1万8400円)と世界的にみても突出して高い」という事実が明らかにされた。イスラエルのハイテク企業は2019年の前半に254件の資金調達で39億ドル(約4230億円)を獲得しており、最もポピュラーな投資分野は人工知能(AI)とサイバーセキュリティ、フィンテックだった。
イスラエルの研究開発に対する姿勢が見て取れる。
提供:OECD
対照的に、パレスチナの企業と新興企業は、業務を進める上でのもっと基本的なところで難関に直面している。
2017年に米ZDNetは、ガザ地区で最初のコーディングアカデミーを開設するためのクラウドファンディングに成功したGaza Sky Geeksのキャンペーンについて報じた。このキャンペーンで集まった資金の一部は、プログラマーと起業家が停電中でも仕事を続けられるようにするための発電機と燃料の購入に充てられた。
他の必要不可欠なサービスへのアクセスも制限される可能性がある。携帯電話事業者は、ヨルダン川西岸地区における3Gサービスを2018年になってようやく開始した。イスラエルでは十数年前にサービスが開始されていたものの、ガザ地区では「セキュリティ上の懸念」により利用できない状態が続いている。