米Akamai Technologiesと三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、2019年4月にAkamaiのネットワークインフラとブロックチェーン技術などを組み合わせたサービスを展開するGlobal Open Network Japan(GO-NET)を設立した。現在はサービスを支える各種開発が大詰めを迎え、まず決済向けのサービスを2020年後半~2021年初頭にリリースする予定だという。代表取締役CEO(最高経営責任者)の徳永信二氏に、ビジネスの展望などを聞いた。
Global Open Network Japan 代表取締役CEOの徳永信二氏
同社は、Akamaiが136カ国に展開する約28万台のエッジサーバーによる配信プラットフォームやAkamaiが独自開発したウォレット内包型の高速ブロックチェーンネットワークを利用し、秒間10万件超のトランザクション処理能力や2秒以内の決済ファイナリティーを実現するサービスを展開する。まずは少額決済処理にフォーカスしたサービスを金融向けに提供し、将来構想としてIoT分野への拡大も視野に入れている。
徳永氏によると、GO-NETの事業化の検討は2011年頃にスタートした。MUFGでクレジットカード事業を手掛ける三菱UFJニコスが、Akamaiのプラットフォームを利用した決済サービスを2012年に立ち上げ、オンライン決済が拡大する中で、高速・大規模処理を実現する新たなインフラを用いるビジネスモデルを検討してきたという。
「既に当時から、従来型のインフラでは拡大を続けるオンライン決済に対応し切れないことが課題となっており、オンラインネイティブでセキュアかつスケーラビリティー、大容量トランザクションに対応し得る新たなインフラが必要だった。2016年頃から技術開発を進め、2018年にGO-NETを設立し、2019年に日本法人を設立した。開発は順調に進んでおり、米国ではPCI-DSS(クレジットカード業界のセキュリティ標準)の認定を取得済みで、日本でも取得できる見込みだ」(徳永氏)
事業領域は大きくキャッシュレス、準ペイメント、ペイメント周辺の3つを定める。キャッシュレス領域では、「GO-NET FM(フィナンシャルメッセージ)」ソリューションとして、決済センター接続、ネットワーク接続、端末接続、与信枠管理のサービスを提供する。準ペイメント領域では、「GO-NET MV(マネージメントバリュー)」ソリューションとして残高照会やポイント連携などの決済に関連する部分向けにサービスを展開する。さらに、ペイメント周辺では「GO-NET IoT」としてIoT(モノのインターネット)を活用した課金や機器管理、データ処理などの広範な内容を構想する。
GO-NETの技術的なプラットフォームの概要
当初のサービス領域となるキャッシュレスでは、特に少額決済にフォーカスする。近年はオンライン通信販売やQRコード決済など数百~数千円規模の決済取引が急増しており、クレジットカード会社などの金融機関や決済ネットワーク事業者などにとってシステムリソースやコストなどあらゆる面において対応での負荷が増しているという。加えて2020年に入り、コロナ禍に伴うオンラインの非接触型ビジネスが急拡大して、この状況に拍車をかけることとなった。
「少額決済処理については従来インフラによるサービスの担保が非常に難しくなっており、金融機関や決済ネットワーク事業者にとっても、決済処理の拡大に対応するための基幹システムの増強や運用のためのコストが大きな負担になっている現状がある」(徳永氏)
事業展開は、まず決済センターへの接続などから始め、決済処理に関しては2021年前半に、自動販売機におけるサービスを提供する。ここではクレジットカード会社らと協業し、クレジットカードを使ったタッチ決済のNFC TypeA/B規格に対応した機器を自動販売機に設置して、消費者がタッチ決済で容易に商品を購入できるようにする。この領域では2025年に非接触クレジット決済の約80%をカバーする計画だという。
また、準ペイメント領域における「GO-NET MV」は、同社の中核的なサービスに位置付けられる。徳永氏によれば、従来型の決済システムにとって高負荷となる少額決済処理などをGO-NET MVにオフロードできるようにし、金融機関や決済ネットワーク事業者のコスト負担を軽減させたいとする。「各社のネットワーク利用コストを現在の半分以下で提供したいと考えている。われわれがコスト削減に貢献することにより、最終的に加盟店や消費者にもその効果を波及させていけるのではないかと思う」(徳永氏)
GO-NET MVでは、さまざまなポイントサービスとの連携やデータ活用のための機能なども検討しているといい、2021年中にも業界各社と要件の洗い出しなどを進めてプロダクトデザインを決定し、2022年頃にはローンチさせたいとしている。
計画するサービスの領域とプロダクト
同社が決済処理と並んでターゲットとするIoT分野は、現状では事業化の検討段階にあるとする。「例えば、物流におけるトレーサビリティーやMaaS(Mobility as a Service)まで具体的かつ多様なビジネスニーズが急浮上しており、検討を進めつつ2021年に幾つかのPoC(概念実証)を行いたい。コロナ禍の影響もあるが2022年頃にはサービスインを実現したいという(パートナーの)声もいただいている」(徳永氏)
技術開発についても、研究段階ながら秒間1000万件のトランザクション処理能力を実現しており、ブロックチェーンも現行技術を大幅に上回る毎秒2万件の書き込みが可能なレベルを達成しているという。徳永氏は、「こうした能力は今後10年の間に求められるビジネスニーズに十分対応し得るように開発を進めている。デジタルのビジネスプロセスをできる限りシンプルにするサービスを実現したい」と話している。