「週5出勤は必須ではないかもしれない」「賃料の高い都心にオフィスを構える必要はないのかもしれない」「そもそもオフィスという箱は必要なのか」——。
新型コロナウイルス(以下、コロナ)の蔓延によって、変化することを余儀なくされた私たちは、働き方の本質と向き合い始めたとも言える。
現にこれまでの在り方を見直す組織も出てきている。今回は企業ではなく、大学研究室の事例を紹介する。政府による緊急事態宣言が解除された後も、学生たちとリモートでのやりとりを継続している。
東京理科大学 経営学部 准教授で、大江秋津研究室(東京・千代田区)を運営する大江秋津氏は、以前「オフィスにいるようなコミュニケーション--仮想オフィスサービス3選」で取り上げた「My Digital Office(日本語版/英語版)」を導入した。仮想オフィスサービスは、メンバーが異なる場所にいても、1カ所に集まっているような感覚でコミュニケーションを図れるツールだ。My Digital Office導入について、大江氏に話を聞いた。
同研究室は2019年に発足。日本大学 生産工学部 准教授を2019年3月まで務めた大江氏が同4月、東京理科大学 准教授として立ち上げ、2020年9月時点で43人のメンバーを抱える。
別々の場所にいながら進める研究室運営
コロナの問題が騒がれ始めた2020年2月、大江氏は今日のような、密を回避しなければならない状況になることを予期していた。皆が1カ所に集まって研究活動を続けるのは難しくなるだろう、と考えていたのだ。その予感は的中した。
そのような状況になった場合、(1)他の学生たちに会えなくなる学生の孤独感を軽減すること、(2)学生同士がコミュニケーション・助け合う機会を減少させず、モチベーションを維持することが課題となると認識。その上で、さまざまなツールを使い、皆が離れたところにいながらも研究室を維持する方法を模索していた。
最初に試したのはオンライン会議システム「Zoom」だった。しかし、Zoomを接続しっぱなしにしているとハウリングが避けられない問題の他、狭い室内にメンバーが複数いるときは閉塞感を覚えたため、使用し続けるのは困難と判断。
続いてテストしたのは、アメリカ発の仮想オフィスサービス「Remo Virtual Office」だ。学生と相談しながらリモートでの研究室維持を模索する中で、学生が提案してくれたサービスだったという。
学生には好評だったが、料金体系が変わって利用料が高くなったことから、使用するのをやめた。その後、出会ったのがMy Digital Officeだった(ユーザー数50人までで、月額250ドル)。
東京理科大学 経営学部 准教授の大江秋津氏
提供:大江秋津氏
「5月の連休前に“お試し”感覚で利用し始めました。5月の連休明け、3年生が20数名、研究室に配属される予定があったのです。学生たちと直接会うのをやめて、すべてオンラインでのコミュニケーションに移行していたのは、緊急事態宣言が出た4月上旬のタイミングでした。そのため、対面で会う機会がなくなった研究室の仲間同士、どうすれば交流できるだろうかと考えた上で、最終的にMy Digital Officeを取り入れるに至ったのです」(大江氏、以下同)
My Digital Officeの良さを大江氏は「こちらのリクエストに対し、迅速に対応してくれるところ」と語る。バグを発見した際、開発者のベンノ・ワイアット氏に伝えると、素早く直しにかかってくれるため、サービスがどんどん磨かれていったという。大学側と連携した上で、VPN対応もすぐに行ってくれた。