前回は、新型コロナウイルス感染症予防に伴う在宅勤務やテレワークの浸透により、多くの企業で検討されている、通勤交通費の実費支給切り替えに関して、考えるべきポイントを2つご紹介しました。後編では、残り3つのポイントについて解説していきます。
(3)定期券と実費支給は本来は両立できない
ここまでくると、実施に向けた枠組みが見えてくるはずです。例えば
- 東京エリアに比べると他エリアは在宅率がそこまで高くない
- 本社や大阪支社の多くがJR沿線で、電車定期にそこまで削減効果が見られない
- ただし、東京エリアのバス定期は削減効果が見込めそう
ということであれば
- 東京エリアのバス定期を実費支給に切り替える
というようなジャッジが可能になります。そうすれば次に
- 現状の通勤交通費支給期間が完了したタイミングで、対象者の経路を実費支給に切り替える
- 次月以降のバス経路については、対象者の勤務地情報に基づいて実費か定期か振り分ける
というような具体的な運用が見えてきます。
一方、当社が把握している各企業の検討事例の中には「1カ月の出社日数が〇日未満であれば、通勤費は実費支給、〇日以上であれば定期代を支給」というようなケースが多々見受けられます。
「出社日数に応じて実費にするなんて、至極当たり前では?」そう思われる方も多いでしょうが、この制度、果たして運用可能なのでしょうか?
従業員の視点で考えてみましょう。例えば、出社日数12日以上であれば定期代、それ以下であれば実費支給、という制度にします。出社日数を完全に自分でコントロールできる従業員はいいですが、そうでない場合
- 定期を買ったけど思ったよりも出社日数が少なく、12日未満となった
- 定期を買わなかったけれども思ったより出社日数が多く、12日以上となった
いずれかのケースで従業員に不利益が発生する可能性があります。この場合、どう対処するのでしょうか。
従業員から訴えがあれば差分を補填するのでしょうか。想像しただけで、給与担当者の方はストレスを感じるのではないかと思います。さらには
- 前々月の勤怠データの登録が間違っていて、本当は出社日数は15日ではなく10日だった
こういったケースがあるたびに、支給しすぎた実費支給額を従業員から差し引くのでしょうか。仮に、対象の従業員が退職している場合は、どうしたらよいのでしょう?
一般的な前提として、定期代は前払い、実費支給は後払いで本来両立できるものではない、という理解が必要です。混在させることによって、どのような問題が発生しうるか、想定しなければなりません。
少なくとも上記のようなケースにおける運用想定や従業員からの問い合わせに対する回答想定がない場合、まず会社としての見解を準備しておくことが最優先となります。ただ、いずれにせよ
- 実費支給対象者を勤務実績に合わせて変動させることは、運用工数を大幅に増加させる
- 制度設計としての問題であるため、運用面・システム設計面のみの解決は困難である
ということは認識しておいた方がよいでしょう。