(4)見過ごされがちな交通費と社会保険の関係に注意
上記のようなケースでもう一つ考えなければならないのは、仮に金額を調整するとして、イレギュラーで従業員に金額を支給(控除)する場合、従業員への支給(控除)だけではなく、社会保険で利用する月割額(報酬額)を調整する必要があるということです。その運用負荷は想定されているでしょうか。
「実費支給で経費扱いだったら社会保険の報酬額に入れなくてもいいんじゃないの?」
と思う方も多いかもしれませんが、勤務先~自宅の交通費をどのような形で支給しているにせよ、社会保険の報酬額として加算しなくてもよいという根拠は存在しません(参考:平成28年の参議院における質問主意書に対する安倍首相の回答)。
仮に、「自社の業務状況であれば、経費とみなして社会保険の報酬額に組み込まなくてもよいはずだ」と判断される場合、管轄の年金事務所にお問い合わせいただくことを強くお勧めします。
(5)就業規則の変更や労働組合への報告が必要か確認
ここまで検討することで、かなり合理的なプランとなっていることでしょう。しかしながら、通勤交通費支給の制度見直しにあたっては
- 就業規則の変更が必要ないか
- 労働組合への説明が必要ないか
上記2点を事前に確認する必要があります。就業規則内で、実費支給を行うことに反するような規定はないでしょうか。
従業員に不利益であるということで、労働組合から指摘を受けるケースはないでしょうか。実費支給への切り替えスケジュールを検討するにあたり、労働組合との合意までの期間は考慮されているでしょうか。
ここまでの検討が無駄にならないよう、先に確認が必要です。
前編と後編にわたり、定期代を実費支給へ切り替えるにあたって最低限踏まえておくべき5つの検討事項をお伝えしました。次回は、交通費制度の設計について解説します。
- 伊藤裕之(いとう・ひろゆき)
- Works Human Intelligence カスタマーサクセス事業本部 シニアマネージャー
- 2002年にワークスアプリケーションズ入社後、九州エリアのコンサルタントとして人事システム導入と保守を担当。その後、関西エリアのユーザー担当責任者として複数の大手企業でBPRを実施。現在は、17年に渡り大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、1100社を超えるユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信している