前編では、新型コロナウイルス感染症予防に伴う在宅勤務やテレワークの浸透により、多くの企業で検討されている交通費支給の見直しについて、そもそも企業にとって通勤手当制度とはどういうものか? という前提に関する解説を行いました。
後編では、実際に運用負荷を低減させる制度設計の際の3つのポイントについて解説します。
(1)通勤手当の制度はシンプルに
まず、どんな手当でも同じかとは思いますが、制度をシンプルにすることが大前提となります。
通勤手当で発生しがちなのは、勤務先の地域や交通手段で特例を認めたり、特殊な条件を用意したりする(例:都道府県ごとにガソリン単価を設定する、など)ことです。
そのため、なるべく上記のような制度は避けて、全社統一で同一のルールとすることをお勧めします。
(2)交通費支給の決定条件と算出方法を明確に
次に交通費支給の条件を極力明確にすることが必要です。
- 最寄り駅までの距離は道なりなのか直線距離なのか
- 駅の出入り口は考慮するのか
- 最安経路よりも所要時間が短い経路があった場合の許容率
- その事業所で利用できる最寄り駅はどこか
など、一般的に利用される経路の決定条件を明確にしておくことで、従業員からの不要な問い合わせを削減することにつながるでしょう。また、
- 「経済的」「合理的」と判断した経路
- 最安経路よりも「大幅な」所要時間短縮が見込める経路なら許可する
というようなあいまいな基準を極力残さないこともポイントです。さらに、
- 距離の算出については○○社の地図ソフト利用の結果とする
- 決定経路は申請サービス内で表示された上位5経路の中から選択するものとする
- 原則、表示外の経路は認められないが、親族の介護、子女の通園などやむを得ない事情がある場合は、その理由を申請内に記載し、上長の承認を得ること。ただし最終的な経路決定の判断は人事部で行う
といったように、距離や金額の算出方法も明確にしておくことが重要です。これらが制度に定められていないと、
- 「自分の地図ソフトだと2kmと表示されているから、バスを利用してもいいはず」
- 「自分がよく利用しているサイトでは、表示されている最安経路は表示されない」
といったように、申請ごとの判断や従業員との条件交渉が発生してしまう可能性があり、担当者の業務負担を大きくするとともに、従業員の納得性を低下させます。
ここで重要となるのは、前回の記事で前提として記載した、通勤手当を「手当」として考えるのか、「実費」として考えるのかという判断軸です。