米WalkMeは、アプリケーションの利用や活用を定着させるためのユーザーインターフェース(UI)機能を提供する。生産性向上策の一つにパッケージソフトやSaaSによる業務の標準化があるが、現場利用の促進につなげるポイントを代表取締役兼日本代表マネージャーの道下和良氏に聞いた。
同社の機能では、プロセスに従ってアプリケーションあるいはウェブサイトの画面に操作方法などを案内する画面を重ね合わせたり、フォームなどに内容を代理入力したりする。操作方法や入力すべき内容が分かりづらいユーザーをサポートし、ツールやサービスの利用状況の分析を通じて、利用定着化を図れるようにすることを主眼に置く。同社はそのコンセプトを「デジタルアダプションプラットフォーム」と称している。
道下氏は、2019年に就任し、それ以前は日本オラクルで営業やCRM/HCM事業本部長、セールスフォース・ドットコムではカスタマーサクセス支援の要職を歴任した。業務アプリケーションのパッケージソフトやSaaSを提供する側での経験から、こうしたツールが定着するには、最終的に人(=ユーザー)に受け入れられるかが重要であり、そこが課題だという。
デジタルツールの習熟度別、「使い方がわからず業務途中で使用を断念することや「入力がいい加減になる」頻度(出典:Walkme資料)
ユーザーに受け入れられるためには、例えば、ヘルプデスクで質問や相談に応じたり、あるいは、より良い使い方をアドバイスしたりする。そこに人的リソースを割くケースは多いが、ユーザーが多いと、人的リソースが追いつかないという難しさもあるという。道下氏は、WalkMeのUIに関するテクノロジーでこの課題の解決につなげていけると説明する。
例えば、住友商事は部門幹部の後継人材を育成するツールとしてSAP SuccessFactorsを導入しており、その使い方支援にWalkMeを利用している。SAP SuccessFactorsの主要ユーザーはベテランであることから、SAP SuccessFactorsの操作を習熟するために時間を割く余裕はなく、WalkMeのガイダンスに従ってSuccessFactorsを使うことで、操作に慣れてもらうようにした。SuccessFactorsとWalkMeを組み合わせる作業は約3カ月で、人事部にSuccessFactorsの操作方法を聞くユーザーの減少効果が認められた。現在は、経費精算のSAP ConcurにもWalkMeを適用している。また、ワイモバイルでは、ウェブサイトの法人顧客の契約申し込みにWalkMeを組み合わせ、操作方法や入力内容を案内するようにした。
道下氏によれば、コロナ禍によってテレワークで業務をしたり外部顧客からの問い合わせなどをオンライン化したりする動きが拡大し、コロナ禍以前のように対面で人に操作方法を聞けないため、WalkMeのサービスを導入してUIでユーザーの操作を支援する企業が増えているという。従来は、基本的に操作や入力の“案内”が主だったものの、システム開発段階から適用し、操作や入力そのものを“簡便”にするケースも出てきたという。
カインズでは、現場のユーザーの担当内容や権限に応じて商品の在庫管理や発注といった業務の一部をWalkMeが自動で補助するシステムを開発、導入した。開発では、同社のIT部門と店舗責任者、WalkMeの担当者が現場業務の内容を分析、パターン化し、システムを共同で設計した。開発工数は多いものの、運用後の業務改善で効果を挙げているという。
道下氏は、操作方法が定形化しておりユーザー規模が大きい業務パッケージソフトやSaaSでは、WalkMeを適用しやすく効果も得やすいと話す。一方、ユーザーが少なかったり、操作方法が属人化したりしているような業務システムでは、WalkMeでガイドするための開発工数がかかり過ぎて、効果を出しづらいとしている。
また、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)とも異なると説明する。RPAは業務プロセスの一部あるいは多くをエンドツーエンドで自動化するシステムで、WalkMeは人によるシステムの操作を補助するものという。とはいえ、操作の補助でもデジタルベースの業務の仕組みづくりには欠かせないとし、例えば、製薬大手のRocheは数十種類の業務アプリケーションにWalkMeを展開している。
道下氏は、日本でも住友商事のように複数のアプリケーションでWalkMeを展開するケースが出始めていることから、2021年はその拡大に期待していると述べる。