本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、国立情報学研究所 所長の喜連川優氏と、大阪府知事の吉村洋文氏の発言を紹介する。
「スマートシティーの取り組みではデータの“お作法”がまだまだ不十分だ」
(国立情報学研究所 所長の喜連川優氏)
国立情報学研究所 所長の喜連川優氏
国立情報学研究所(NII)所長の喜連川優氏は、1月27日からオンラインで配信している「地方自治情報化推進フェア」(主催:地方公共団体情報システム機構)の講演会で、「ウィズコロナ時代におけるビッグデータ駆動型社会〜行政でデータ活用を進めるために〜」と題してキーノートスピーチを行った。
喜連川氏の冒頭の発言はそのスピーチの中で、地方自治体が情報化を推進する上で今後の重要な取り組みとなる「スマートシティー」の課題について語ったものである。なお、同フェアは参加無料(登録制)で2月19日まで配信している。
社会課題の解決にデジタル技術を活用するスマートシティーについて、同氏は図1を示しながら「さまざまな分野のサービスを連携させながら、新しいイメージの自治体を創っていこうという取り組み」と紹介。ただ、毎年初に開催される世界最大のデジタル関連イベント「CES」からスマートシティーの話題について受けた印象として、「2021年は2020年に比べて少し影を潜めたように感じた」とも。
図1:喜連川氏が示した「スマートシティーのサービスイメージ」
その理由の1つとして、Googleの親会社であるAlphabert傘下のSidewalk Labsが2017年からカナダ・トロント市の港湾地区で進めていたスマートシティー計画を、2020年半ばに取りやめたことの影響を挙げた。
この出来事により、スマートシティーを実現することの難しさが浮き彫りになった格好だが、同氏は「計画を取りやめた原因として取り沙汰されたのは、全てのデータをGoogleに集めることへの住民の一定程度の違和感だ」と述べ、すなわちプライバシーの問題が大きく立ちはだかったとの見方を示した。
そして、その問題は「データ駆動型社会を目指して『Society 5.0』を掲げ、そのコンセプトに基づいてスマートシティー計画を進める日本でも同じことが言える」とし、その上で「スマートシティーの取り組みで最も懸念されるのは、データの“お作法”。つまり、レギュレーションがまだまだ不十分な状態であることだ」と指摘した。
従って、同氏が言う「データの“お作法”」については今後しっかりと対応していかないといけないが、一方で同氏は「スマート化」について、ウィズコロナ、そしてアフターコロナに向けて、「世界中のさまざまなところで芽が出始めている」とも。「そうしたスマートな動きを日本もどんどん採り入れて、ニューノーマルをたくましく生きていこう」と訴えていた。
喜連川氏の話はいつも興味深いが、今回は「データの“お作法”」という表現が何とも印象的だった。