日本マイクロソフトは4月7日、通信業界のB2B2Xビジネス(同社と法人顧客および顧客のビジネス)を創出する「Azure for Operators」の国内展開を開始するとともに、メディア業界の顧客とのコミュニティー「Microsoft DXチャネル」を設立することを明らかにした。
これらの取り組みでは、通信事業者が求める品質のプラットフォームをMicrosoft Azureから提供する「Azure for Operators」を通じて、B2B2Xのビジネス創出を支援する。セガサミーホールディングスやバンダイナムコビジネスアーク、読売新聞など8社が参画を表明している「Microsoft DXチャネル」を通じて、ニューノーマルにおける新たな視聴体験の共創支援を目指す。
同日の記者会見で業務執行役員 エンタープライズ事業本部 通信メディア営業統括本部長の石本尚史氏は、「顧客から『Microsoftは通信事業者になるのか、広告ビジネスを展開するのか』など問い合わせをいただく。われわれは顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援する。新たな市場開拓を目指し、パートナーの立ち位置を崩さない」と述べた。
日本マイクロソフト 業務執行役員 エンタープライズ事業本部 通信メディア営業統括本部長の石本尚史氏(左)、通信メディア営業統括本部 インダストリーエグゼクティブの大友太一朗氏
Microsoftは、2020年秋に「Azure for Operators」を発表。通信メディア営業統括本部 インダストリーエグゼクティブの大友太一朗氏は、「キャリア規模のプラットフォーム」と説明する。同社は、2020年3月にクラウドベースのモバイル通信ソリューションを手がけるAffirmed Networks、同年7月にクラウド通信ソフトウェアベンダーのMetaswitchをそれぞれ買収し、既存のエッジコンピューティングソリューションを加えることで、通信事業者が求める品質のプラットフォームを実現した。大友氏は、「両社の買収により5G(第5世代移動体通信システム)コアネットワークのコンテナー化や通信設備の仮想化を可能にした。端末からコアネットワークまで支援する体制を用意している」と、その概要を紹介した。
Azure for Operatorsを構成するサービス群
Azure for Operatorsの利点は、超低遅延の通信環境が求められる製造業や自動車制御などへの専用通信環境の提供や、従来は数年を要したネットワーク設計・構築を数日から数週間で実現することだといい、「仮想化基盤はMicrosoftが維持管理する」(大友氏)と、これが通信事業者の収益を生み出す基盤になり得ると解説した。コスト面でも「通信量に応じたスケールイン、スケールアウトでCAPEX(設備投資)モデルからOPEX(事業運営費用)モデルへの転換に貢献し、ボイスメールなどレガシーなサービスの設備運用コストの抑制を実現する」(大友氏)とアピールする。
Azure for Operatorsの国内での採用事例はないものの、海外ではロボットで在庫管理システムソリューションを提供するAttaboticsのケースがある。無人運送車と5Gによる工場運用の自動化を図り、MR(複合現実)などのソリューションを製造業や政府関連産業に提供するTaqtileや、ビジネス課題を解決するVisual AIを展開中のEverseenも5Gの低遅延通信を生かしたリアルタイムな作業現場への指示や、異常検知などに利用している。
日本マイクロソフトはAzure of Operatorsの展開として、「OTT(Over The Top)事業者のアプリケーションや開発プラットフォームとしての活用、AI(人工知能)による予兆保全や料金回収などB2B2Xビジネスを支援する付加価値サービスの提供」(大友氏)などを目指している。「B2B2Xイネイブラー」と大友氏は支援者の立場であることを強調した。
Microsoft DXチャネルに関しては、映像編集システムを手掛けるアビッドテクノロジーと映像コンテンツ関連サービスを手掛けるIMAGICAエンタテインメント メディアサービスの事例があるとし、日本マイクロソフトが提供するソリューション群で「メディア業界のオペレーション改革が可能」(大友氏)だとする。
Microsoft 365による共同作業の促進や業務効率化のように、大友氏は「コンテンツ制作の場でもDXは可能。業務工程をクラウドに集約することで、遠隔地にいるスタッフ同士の映像編集や自動文字起こし、制作の半自動化、人物や音声などに対するメタデータを付与できる。これらのデータを活用して視聴動向を分析すれば、顧客単価の向上や解約率の抑制につながる」とした。
Microsoft Azureを活用したメディア業界向けオペレーター改革
IMAGICAエンタテインメント メディアサービスは、2020年7月の公開を目指して同年3月に撮影を開始したものの、コロナ禍で中断。同社エンタテインメントメディアサービス 編集の西尾光男氏によれば、制作と担当した同社では、リモート編集ソリューションを比較検討し、アビッドテクノロジーのクラウドに最適化したノンリニア編集ソフトウェアの「Media Composer」とメディアストレージの「Avid NEXIS」を備えた「Avid Edit On Demand」を導入した。「制作はストレスのない応答性が重要。ネットワークさえ担保すれば、絵や音のズレやコマ送りなど負荷の高い編集作業も可能だった」(西尾氏)という。
IMAGICAによるAvid Edit on Demandの利用環境
一連の取り組みについてマイクロソフトの大友氏は、「コスト効率化と新たな収益源創出に貢献する。われわれはあくまでお客さまのパートナーであり通信事業者とは競合しない。クラウド以外にもオンプレミスなどエンドツーエンドかつその他のシステムインテグレーターやネットワーク事業者とともに顧客支援に努め、中長期的に伴走する」との方針を説明した。
アビッドテクノロジー パートナーアカウントマネージャーの光岡久治氏(左)とIMAGICA エンタテインメントメディアサービス 編集の西尾光男氏